理論

スキゾイド・パーソナリティ (分裂的パーソナリティ Schizoid Personality)

「こころの基本的なポジションは、つねに、スキゾイド・ポジションである」(クライン)
 分裂のレベルによって統合失調症の患者から健常者の一時的な分裂にまで渡る。
  統合失調症の患者が、発祥の前にヒステリー、強迫症状を示していること
    →統合失調症という根本的な破綻の前に、さまざまな神経症的防衛が行われていることを示す。


 スキゾイド・パーソナリティの特徴  ユングの内向性との類似
 1)万能的態度
 2)情緒的な孤立とひきこもりの傾向
 3)内的現実への没頭
   知性化  観念が感情の代わりをする。
   自我の統合機能が低下すると、内的現実と外的現実の区別がつかなくなる。
ex. 離人感、極限状態での不自然な冷静さ、デジャビュ(過去と現在、空想と現実の混乱)、解離症状(夢遊病、記憶喪失、多重人格)、反社会性、科学・芸術の探求

 スキゾイド・パーソナリティにおける自我の分裂
  夢の登場人物=分裂した夢主の一部
  超自我=自我の分裂によって生じる

前期口愛期のリビドー態度の特徴

 分裂の起源。口自我 mouth ego

1)リビドー対象が、全体対象(人全体)でなく、部分対象(乳房)であること。
 対象の脱人格化及び対象関係の脱情緒化。
 リビドー対象を、自分の欲求を満たすための道具(部分対象)として扱う。

2)口愛的体内化(与えることに対する受け取ることの優意)
 自己の価値を内的世界に蓄積しようという傾向が強い。与えることは、からっぽになってしまう不安を引き起こし、自尊心を低下させる。
 ex1.子どもを生むと、関心を払わなくなる女性。また生んだ後も自分の一部であるかのように扱う女性。
 ex2.分裂傾向のある人が、社交的交わりの後に疲れてしまうこと。
   口頭試験でわかっているのに答えを口に出せない患者。
 ex3.知性化。内的優越感。
 与えることを克服するためにいろいろな技術に訴える。
  「役割演技」 フロイトの著作の一説を口ずさみながら診療室に入って来た青年。
  「自己顕示」文学や芸術への関心。
 フェアベアンの家の近くがドイツ軍に爆撃されて無事だった時、メモに自分自身の情報を書きつけて渡して来た女性。

3)対象の空虚化→不安の喚起
 乳房がからっぽになるのは、自分がそれを体内化したためであり、自分が母親の消失と破壊を引き起こしたのではないかという不安をいだくようになる。

発達段階

1)乳児期的依存期
・口愛期前期(吸うか拒絶するかの前アンビバレンス的段階)

 アンビバレント発生以前のため、母親が自分を愛してくれていないと思えるような状況に遭遇した場合、母親が自分を愛してくれないのは自分の愛情が破壊的で悪いものだからと思うようになってしまう。
 分裂・内向の起源。空虚感。母親の乳房(部分対象)
 統合失調症はこの時期の問題。

・口愛期後期(吸うかかむかのアンビバレンス的段階)

 吸うことに結びついた口唇的愛情とかむことに結びついた口唇的憎悪のアンビバレントが生じる。子どもは母親が自分を愛してくれていないと思えるような状況に遭遇した時,「母親の優しい愛情を破壊してしまったのは、自分の憎しみなのだ」と解釈できる。
 これが躁鬱病の根底にある抑鬱局面を形成する。
 外向性。乳房を持った母親。(全体対象)
 鬱病はこの時期の問題。
 子どもはアンビバレントな状況に対処しようとする時,母親を「よい対象」と「悪い対象」に分割する。悪い対象を内在化する。この内在化された悪い対象を「刺激的対象」「拒絶的対象」に分割する。このふたつを抑圧。かなりの攻撃心を用いる。この対象に結び付いた,自我を中心自我より分割し,再び攻撃心を用いて抑圧する。

2)移行期
 体内化された対象が受け入れられた対象(=よい対象)と拒絶された対象(=悪い対象)に分割され、さらに外在化される。
 妄想症、強迫神経症、ヒステリー症状、恐怖症はある発達段階への固着から生じるのではなく、分裂ポジションと抑鬱ポジションをひきおこす体内化された悪い対象による口唇期的葛藤に対処し、幼児的依存から成熟した依存へと移行するため(分離不安の防衛)の技術である。

妄想症的技術
 よい対象の内在化。悪い対象の外在化。
強迫神経症的技術
 よい対象、悪い対象いずれも内在化。
ヒステリー症的技術
 よい対象の外在化、悪い対象の内在化。
恐怖症的技術
 よい対象、悪い対象の外在化。
 「よい対象によって保護されているが、悪い対象からの攻撃にもさらされている」

3)成熟した依存の段階(性器期)
 抑圧

 フェアベアンは体内化された悪い対象、すなわち対象との悪い関係が抑圧されると考えた。
 フロイトは、メランコリー症状の観察(口愛期後期の抑鬱局面・罪悪感)を基に、超自我が罪悪感から、衝動を抑圧すると考えた。
 フロイトの抑圧がリビドーの抑圧であるなら、フェアベアンの抑圧は関係の抑圧と言えるだろう。


ある冷感症の婦人の夢

 自分が有名な女優に手ひどく襲われている。夫がこれを傍観している。女優は攻撃が終わると再び舞台の役を演じる。
 自分が血を流しながら床の上に倒れているを眺めているのに気づくが、その姿が一瞬男性の姿に変わり、再び自分の姿になったりして交互にいれかわるが、不安になって目を覚ましてしまう。

【伝統的な解釈】
 ・Ptのリビドーが父親に対して近親相姦的な愛着を感じているので、母親をモデルにした超自我が動き出して、Ptのリビドーを抑圧している。(願望充足)

【 フェアベアンによる解釈】
 自我分裂。(内的現実の中に実在している状況のドラマ化)
 夢の中に出てくる人物は自我の相異なる部分を表わすか、内部対象を表わすかどちらかである。

中核自我    観察者の私    傍観者の夫
リビドー自我  攻撃されている私 攻撃される男性(刺激的対象)=夫=父
反リビドー自我(内的破壊工作員) 攻撃している女優(拒絶的対象)=母