人生のリ・メンバリング/ロレイン・ヘツキ ジョン・ウィンスレイド

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 ナラティヴ・セラピーが死にゆく人、愛する人を亡くした人にいかに関わるかを記した本。
 原題は "Re-membering Lives"。「死を前にした人が自分の人生を振り返る」という意味と、「愛する人が亡くした人を忘却するのではなく、自分の人生というクラブにも再加入させる」という二重の意味が込められている。邦訳は前者の意味を取った訳。「人生」は人を示さないから、「人」も「一生」も表せる「いのち」を使って、「いのちのリ・メンバリング」の方がよかったんじゃないか。
 
 あいかわらず再会員化するナラティブ・セラピーと、非会員化するその他のセラピーという二項対立を持ってきて階層化を行うのは残念なことだけど、ターミナル・ケア(という言葉自体がたぶんリメンバリングでは否定されるのだろうけど)という、セラピストにとってもしんどい環境で、関係性を紡いでいく方策は参考になった。こういう関係性への着目は精神分析で言ったら対人関係学派に近い部分もあるかなと思う。
 ちょうど岸本寛史先生の「癌と心理療法」を併読しているところ。こちらはユング派的なアプローチだけど、やはりこういうテーマであると、セラピストの中に喚起されるものを使うしかないという気もする。岸本先生が、河合隼雄の書籍を読んだことをきっかけに夢を大量に見たこと、この本の作者のひとりであるジョン・ウィンスレイドが5歳で娘を亡くしていることなどを読むと特に・・・
 
 小森先生もあとがきで書いているけど、そもそも彼岸などの習慣を持つ日本っていうのは、もともとリメンバリングなところを持っているかもしれない。だけど、仏教が宗教的な力を失ってから、死というものをいかに受け止めるかということは何だか生活から遠いものとなってしまっている。いきなりターミナル・ケアといっても宗教的なバックグラウンドのない中ではなかなか難しいかもしれない。そこらへんに臨床心理学的な知見がいかに貢献できるかは、きっとこれから大きな課題になるんだろうなぁ。
 書籍の終わり方も、リ・メンバリング的でなかなかよかったです。


私たちのメンバーシップ・クラブとして、あなたのストーリーを持つ可能性を失うよりも、それを共有してほしいのである。二方向性の結びつきを歓迎し、他の人々と共有すべきリメンバリングのストーリーをもっと集められればと願う。本書を読んであなたの下へ届けられたストーリーを何であれ、私たちにメールしてくれればと思う。下記のウェブから私たちに連絡を取ってほしいhttp://rememberingpractices.com/ これが、本書の執筆を中断する方法である。現在進行形の会話への招待。

  • p.42 1996 → 1969? 筆者たちは精神分析に基づいたキュブラー・ロスのアプローチはディスメンバリングなものだというけれど、ロスの後期のチャネリングで死後の世界との交信が可能だいう主張はどう扱うのだろう。そういえば、イタコや降霊術はリメンバリングなんだろうね。

人生のリ・メンバリング―死にゆく人と遺される人との会話
人生のリ・メンバリング―死にゆく人と遺される人との会話ロレイン ヘツキ ジョン ウィンスレイド Lorraine Hedtke

金剛出版 2005-07
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