文豪谷崎というと「細雪」「卍」などという作品が思い浮かぶのでしょうが、自分にとっては文学全集の一巻を読んだくらいで、後は探偵小説というフィルターを通しての谷崎しか知らないのです。
江戸川乱歩が探偵小説としての「途上」を賞賛していたとか。そういう視点からはこの伝記は面白かったです。特に渡辺啓介・渡辺温の探偵小説家兄弟とのからみが。
自ら脚本を書いたり、映画との関わりも大きかったようですが、1924年、谷崎はプラトン社の映画筋書懸賞の審査委員となり、彼の推した渡辺温が「影」で一等当選となっています。
また、ひいきにしていた俳優、岡田時彦(女優岡田茉莉子の父親)の芸名をつけたのは彼だそうです。岡田時彦は雑誌「新青年」の1929年の企画「映画俳優による探偵小説競作」で「義眼のマドンナ」という探偵小説を掲載しているのですが、実はこれは代筆で、その本当の作者は渡辺啓介で、これがかれの処女作でした。弟の温が夭折し、兄の啓介が長命だったため啓介の印象が強いのですが、デビューしたあたりでは、この立場はまったく逆だったようですね。
温はその後、博文館に入社して、横溝正史のもとで「新青年」の編集に携わり、谷崎にも探偵小説の執筆を依頼しますが、その帰りのタクシーが踏切事故に遭い若くして亡くなります。
また、谷崎の佐藤春夫への妻譲渡事件が有名ですが、谷崎がいったん約束を反故にした後、夫人が後に探偵作家となる大坪砂男と不倫していたなどの事実も、この本で初めて知りました。
谷崎潤一郎伝―堂々たる人生 | |
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