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やっと読み終わりました。老作家がみずからの記憶の果て、出生の秘密に至る丸谷才一の小説「樹影譚」に対する村上春樹の読みへのツッコミから始まります。丸谷が小説で匿名で引用する文学理論は、丸谷の創作だろうというのが村上の読みなのですが、それには実は明確な出典があったという事実。「樹影譚」という作家の出生の秘密にまつわる話から、フロイトのファミリー・ロマンスからランクの英雄神話の精神分析的解釈、ラカンとパースの記号論、ヘーゲル、ルソー、夏目漱石の被害妄想とトピックは広がりながらも始まりへと回帰し、「樹影譚」をなぞっていく・・・
出版社 / 著者からの内容紹介
漱石研究の新解釈
衝撃作『青春の終焉』に続く新たな地平精神分析、現代思想から漱石、丸谷文学までを貫く“秘密”を論じて、読む快感の小説論!目次
出生の秘密
起源の誘惑
無意識の魔
子供の懐疑
少年の妄想
記号の階梯
鏡のなかの私
寂しさの始原
母の場所
孤児の道
捨子の笑い
妄想と攻撃
開化の秘密
僻みの弁証法
孤独の発明
魂の悲哀
精神分析理論もいろいろ出てきておもしろかったです。ただ、少しつっこんでおけば、ラカンは人間を精神病として、フロイトは神経症として、クラインは子どもとしてみたという記載がありましたが、クラインは恐らく人間には子どもは存在しないと思っていたはずです。だから、しゃべれない子どもでさえ遊びによって分析ができると考えた。現在では「児童分析の記録」などクラインの著作にも「児童分析 child analysis」という用語が使われていますが、当時は「児童分析」というのはアナ・フロイトの用語で、クラインは「早期分析 early analysis」という用語を対抗して使っています。クラインの中では、子どもの分析という特殊なものではなく、ただ対象年齢が早期にすぎなかったという意識であったろうと思います。
ともかく、お薦めです。
出生の秘密 | |
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