二つの月の記憶/岸田今日子
小学校の講義で聴いた宮澤賢治の「やまなし」の朗読は強烈な印象で脳にすり込まれている。ムーミンの声の人だと思って聞いたのは間違いないけれど、あの声が水底にくぐもる死んだクラムボンのイメージにぴったりだった。
これは女優岸田今日子が亡くなる数年前にメフィストに執筆していた短編集。マンディアルグの「オートバイ」への愛すべきオマージュの同名短編から始まり、若かった女優の影絵と老女としての筆者の過去への眼差しが交錯する「引き裂かれて」まで。老いの中から見えるほんのりしたエロスと保存された過去。愛すべき小品たち。
二つの月の記憶 | |
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