関係精神分析の視座―分析過程における希望と怖れ/S.A.ミッチェル

 翻訳はやや硬い表現が多く、誤訳というわけではないが全体的に意味がぼやけてしまっているような気がする。ミッチェルは英語で読むと明解という印象なんだけど。ほんとは内容についてもう少しつっこんで書きたいけど、何か頭に入ってこなかった。
 細かい固有名詞表記、専門用語の翻訳に難あり。そんな細かいこといわなくても、と思うかもしれないけど、よい翻訳かどうかのチェック項目の第一は固有名詞表記とかに気を遣っているかどうか。そういう配慮をする翻訳家は当然、文章への配慮も行き届いている。
 訳注も「不思議の国のアリス」、「ニュー・イングランド地方」、「すっぱいぶどう」よりもっとつけるべきものがあるのではないかと思う。

  • p.69 偽証性(falsifiability) → 反証可能性  ポッパーの有名な科学−疑似科学論の用語
  • p.138 グスタフ・フローベールギュスターヴ・フローベール フランス人なので。
  • p.182 我執(mindfulness) → 念 第3世代の行動療法のマインドフルネスを知らないかな。我執では意味が真逆。
  • p.200 サンドーラ・フェレンツィ → サンドール(シャーンドル)・フェレンツィ p.287 では「サンドア」。文献欄で邦訳されている本との対照を載せいていないのもまずいと思う。コフートの「自己の治癒」が「分析的治癒の機序」などずれも生じてしまっている。(翻訳的には後者の訳の方が正確ではあるのだけど)
  • p.211 大衆向きで人気のある心理学 → 通俗心理学 popular psychology なのでしょう。きっと。
  • p.211 ゲーエント(Ghent) → ゲント
  • p.266 「ほしいと思うものがいつも手に入るとは限らない(You Can't Always Get What You Want)」 → 「無情の世界」 どうでもいいけど、ロック教徒としてはこうしてほしい。ストーンズのナンバーの邦題。


 ドイツ語系の名前がみんな英語発音になってるな。シグムント・フロイトとかウィルヘルム・フリースとか。もっともオーストリアではSは英語同様濁らない発音が多いから、シグムントの場合は結構原音に近いかもしれないけど。メラニー・クラインで有名なカナダの伝記作家の Grosskurth が「グロスクルス」。

関係精神分析の視座―分析過程における希望と怖れ
関係精神分析の視座―分析過程における希望と怖れS.A.ミッチェル

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