お前らもっと萌え擬人化中世起源の凄さを知るべき

ジョイスと中世文化―『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅/宮田恭子

 タイトルはホッテントリメーカーで作りました。

 「萌え擬人化(もえぎじんか)は、現代の日本の漫画・アニメなどに関する同人用語で、人間以外の動植物や無生物・概念などが「実は人間(の姿)だった」と仮定して萌えと結びつける行為。作り上げられたキャラクターの名前は「〜たん」がつくことが多い」(wikipedia)そうです。最近では中国のネット検閲の萌え擬人化が印象的でした。

 萌え擬人化というと日本のオタクの創作と思いがちですが実は違います。
 五世紀のアフリカ、カルタゴ生まれの弁護士、マルティアヌス・カペラの主要著作『フィロロギアとメルクリウスの結婚』ではフィロロギアの介添え役七人の女性に文法、弁証法、修辞法、幾何、算数、天文学、音楽が萌え擬人化されています。
 たとえば幾何たんは「右手にコンパス、左手に球体」、天体たんは「天体を観測するL字形の道具」などのアイテムを持っています。


 また1182年に書かれたスコラ派の哲学者アラン・ド・リールの『アンティクラウディアス』においても自由学芸の七女性がアレゴリーを用いて描かれています。
 論理たんは右手に花、左手にサソリ、修辞たんは、金色の髪に深紅の唇、服は極彩色、右手にラッパ、左手に戦いの前触れを告げる角笛を持っています。


 こうした物語世界の萌え擬人化は絵画や彫刻の世界にも影響を与え、シャルトルの大聖堂には十二世紀に彫られた浮彫が残っており、蛇か蠍を持った論理たんとキケロ、石版と破壊されてしまったコンパスらしきものを持った幾何たんとユークリッドの姿を見ることができます。さえない男性とペアでかかれているところが萌え擬人化の面目躍如というとこですね!


 へラート・フォン・ランズベルク監修の写本『喜びの園』の哲学たんも凄い。女王に擬せられた哲学たんは三つの人頭の載った冠をかぶっている。三つの頭の脇には、倫理学、物理学、論理学の文字が記されている・・・


 萌え擬人化はこうした中世スコラ学的アレゴリーの伝統を踏まえて描かれていたわけですね・・・。 


 だれか修辞たんのイラストを描いてくれないかな・・・


 元ネタは下記の本です。

ジョイスと中世文化―『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅
ジョイスと中世文化―『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅宮田 恭子

みすず書房 2009-03-03
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 上記の本、次の箇所も面白い。


 映画『第三の男』のテーマ・ミュージックを演奏した楽器として有名なツィターは、古代ギリシアの楽器キタラを語源としており、したがってこの形態の楽器は古くからあったのだろう。「ツィター奏者」は本来なら zitherist だが、ジョイスは"zithere"(FW,p.48)という語を造り、また少女たちが星のように輝いて円舞を舞うくだりでは "zitterings"(FW,p.222) という言葉を造って、「きらきら」といった擬音語的効果を生み出している。
 タンバリンに似た鈴つきの小太鼓、ティンブレルは、旧約聖書にも現れている古い楽器で、十字軍の頃にヨーロッパにはいってきたという。ジョイスは timbrel から timbrelfill という語を造り、"timbrefill of twinkletinkle"(FW,p.295)と使っている。「タンブラー一杯のトゥインクルティンクル」とも「トゥインクルティンクルとタンバリンを打つ音」とでも訳せるだろうか。
 (p.178)
 ツィッタリングとティンブレル・・・・もちろんネットサービスの twittertumblrはこのフィネガンズ・ウェイクからの引用である(嘘)。