いわゆる国家資格問題に関する見解

 毎年配られる臨床心理士関係例規集とともに財団法人日本臨床心理士資格認定協会、緊急資格化問題ワーキンググループという書名による「いわゆる国家資格問題に関する見解」というB4の資料が送付されてきた。
 内容は現在進んでいる国家資格化が「臨床心理学」から「心理学」へ重点を置き換え、臨床心理学の優位を脅かす危険なものであるというものだ。


 一方、こうした危険を承知しての国家資格運動を主張される一般社団法人日本臨床心理士会のあり方にも疑問を強く感じます。
 と矛先は国家資格化推進の立場を取る日本臨床心理士会にも向いている。
 これだけ重要な内容にも関わらず緊急資格化問題ワーキンググループに関しては送られてきた資料を見る限りメンバーさえ明らかにされていない。


 せっかく国家資格化に向けての歩み寄りが行われているのにこのような動きが出てくるのは非常に残念だ。というかこんなものに認定されているかと思うとほんとうに情けない。


 (追記)認定協会のウェブサイトなどには掲載されていないようなので、国民全体の福利に関係するという状況を鑑み無断転載します。ご意見があれば yousobject@gmail.com までよろしくお願いします。


臨床心理士各位
平成21年度版例規集送付に添えて
平成21年12月15日
財団法人日本臨床心理士資格認定協会
専務理事大塚義孝
 文部科学省の許認可によって組織されている財団法人日本臨床心理士資格認定協会は、昭和63年(1988)3月に発足し、平成21年(2009)12月で22年目になろうとしています。この間に、19,830人の方々に「臨床心理士」の資格認定証を付与し、今日の発展をみていることはご案内のとおりです。
 とくに本年度は、臨床心理士の専門的養成大学院として、学校教育法第65条第2項および第110条にもとづき、本認定協会内に臨床心理士の養成に関する専門職大学院の認証評価を行う専門機関を設けられることが、文部科学大臣より認可されました(平成21年9月4日)。臨床心理士各位のさらなる発展と社会化に資する営みとして、当認定協会の使命の重さを痛感しているところです。
 ところで、こうした時代の要請ともみなされる緊張の日々の中にあって、臨床心理士各位のお目にも留まっているかと思いますが、臨床心理士有資格者の固有な職業的権益を守り、臨床心理学の発展と国民の心の健康生活に寄与しようとする一般社団法人日本臨床心理士会の公報誌(日本臨床心理士会雑誌)で、「臨床心理士の国家資格化の方途」を内外に示される状況が生まれました。この内容は、臨床心理士はもとより、すべての関係者にとって看過できないものがあるとの認識から、今回、平成21年度版臨床心理士関係例規集発行に際し、別紙同封のような形で、当協会の「緊急資格問題ワーキンググループ」のまとめられた「いわゆる国家資格問題に関する見解」をお届けすることにいたしました。
 同送いたしました21年度版例規集のご活用と同時に、ワーキンググループの提言された臨床心理士の国資格に関する見解についてもご理解を深められ、日々の心理臨床活動に遺漏なきことを願うものです。

いわゆる国家資格問題に関する見解
平成21年(2009)12月10日
財団法人日本臨床心理士資格認定協会
緊急資格問題ワーキンググループ
いわゆる国家資格問題に関する見解
平成21年(2009)12月10日
財団法人日本臨床心理士資格認定協会
緊急資格問題ワーキンググループ

 このところ再び、国家資格の課題がさまざまに論じられているようです。これは、当臨床心理士資格認定協会にとっても重要な関心事なので、ここに我々の現時点における見解を述べておきたいと思います。
 すでに繰り返し伝えられているように、我々は基本的に臨床心理士が整合された国資格になることを願っています。それゆえに、約5年前、文部科学省厚生労働省の合意のもとに方向性が示されたときにも全面的に賛同し、関係省庁や議員連盟の方々に協力をお願いし、さまざまの働きかけを積極的に行ってまいりました。その後、二資格一法案という方針そのものが実現困難であることや、国会の動きとの関連で、この法案は上程されずに日が過ぎて行きました。
 現在でも、妥当な国資格ができるならば、臨床心理士の発展像として、いささかも反対するものではありません。
 ところが、このたび喧伝されている国資格への動きでは、目指す資格は「臨床心理士」ではなく、心理学一般を基本モデルとして再構築しようとするところに力点のある「心理士(師)」だということです。そうなると、我々としては前回と同じ姿勢で事を進めるのは難しくなります。もし、「心理士」資格であるなら、これまで皆さんや関係者の涙ぐましい努力によって築かれてきた臨床心理士としての実績と一般人に広く知られるようになったパブリック・イメージ(名称効果)はともかく、その専門'性を担保する160校以上の専門職や指定大学院の教育体制や臨床心理学の専門職能性はどのようになるのでしょうか・・・・
 スクールカウンセラーに任用される臨床心理士の実績ひとつ想定してみても、「心理士」が先にあっての国資格を求める考え方は、看過できない問題点です。「心理士」に呼称される大学、大学院での教育体制も、今日の「臨床心理学専攻又はコース」を「心理学専攻又はコース」に改変される陥奔のあることに留意する必要があります。当事者である「臨床心理士」はもとより、大学院で臨床心理士養成にあたられる先生方、大学院生の方々も、カリキュラムの改変による真に役に立つ臨床心理学が心理学の名において拡散する危険性をはらんでいることを知らなければなりません。
 一方、こうした危険を承知しての国資格運動を主張される一般社団法人日本臨床心理士会のあり方にも疑問を強く感じます。この団体は、臨床心理士を束ね、運営し、その社会貢献を推進する役割を担っているはずなのに、その役割はどうなるのでしょう。もし、別名の資格ができたら、臨床心理士会を解散するのか、別の運営主体を作るのかもしれませんが、それまで臨床心理士会としての仕事はどうなるのでしょうか。
 以上のように、国資格が「臨床心理士」ではないということは、単なる名称の問題ではなく、臨床心理学という我々の学問的基礎の根幹を揺るがす深く広い意味を伴っているので、我々はこの方向性に俄かに賛同することはできません。「臨床心理士」という国資格が作れない理由は、医師、特に精神科医が感情的に反対しているから、という理由しか聞こえてきません。果たして、感情的な理由だけなのでしょうか。そんな理由だけで、我々に最も近く、最も緊密に提携するべき職種の、しかも理‘性のある職種の先生方が反対されるとは思えません。
 いずれにしろ、今回の未来への願いを受け入れる世界である国資格化の内容が不透明であることは、残念でなりません。しかし、このままで立ち止まっているわけにも参りません。現在、日本臨床心理士会から提案(日本臨床心理士会雑誌vol、18-3,P、5,2009)されている「国資格に対する当会(日本臨床心理士会)の考え方」には、臨床心理士の職能アイデンティティのみならず、学問的な基礎までもを根幹から揺るがしかねない極めて重大な危険性を含んでいるのではないかと考えています。
 このような現状に関する基本認識をふまえ、今後は関係機関や諸団体と充分に意見の交換を図り、臨床心理士各位に資するために遺漏なき対応をしていきたいと思います。