Theory


古典的精神分析自己心理学
  古典的精神分析 自己心理学 Kohut
   罪悪感の人
 葛藤理論 自我、超自我エス、現実の間の葛藤。
 悲劇の人
 欠損理論 1次的欠損を防衛的構造と保障的構造が埋め合わせている。
自己愛 一次的な自己愛は対象愛に至る以前のリビドー投資の未熟な形。
二次的な自己愛は対象に向けられていたリビドーが撤去され、自己に投資される病的退行状態。(ハルトマン)
 自己の構造の安定と自己評価の維持のために必要な自己対象関係。対象愛とは異なる健康な発達ラインのひとつ
自己愛人格障害  遺伝要因を強調。誇大自己を病理と考える。
 誇大自己=理想自己・理想対象・現実自己が融合

<治療法>
 陰性治療反応に対する直面化、解釈
 自己愛を対象愛に置き換える。  環境要因を強調
 誇大自己を未熟 archaic であると考える。
 自己対象の非共感的な反応によって変容性内在化が不十分のまま発達が停止して、自己は断片化する。このため自己対象機能が十分に内在化されない。

<治療法>
 治療者は共感的に患者に接することで自己対象転移を形成し、変容性内在化を起こさせる。
攻撃性  本能によって自己の中に最初から存在する。
 自己対象の非共感的な反応によって、過度の欲求不満が起こり、自己愛の傷つき、自己の断片化が生じる。(自己愛的憤怒 narcisstic rage)
赤ちゃん  攻撃欲動、原始的な防衛及び葛藤によって危機にさらされている。
 アサーティブな存在。
健康  エディプス・コンプレックスを通過した性器性欲。
 アンビバレンスを通過した対象愛。
 記述的基準。
 倫理的な主張。働くことと、愛すること。  普遍的記述はできず、特定の個人にのみ適用が可能。
 構造的、力動的説明。
 野心、技術・才能、理想の追求。
エディプス期  性衝動が超自我の働きによって充足できない葛藤から去勢不安が生じる。克服すべき障害。神経症の原因となる重要な段階。
 自己対象から愛情と誇りに満ちた反応を受け、喜び joy にあふれる健康なもの。必ずしも去勢不安、ペニス羨望を伴わない。
 エディプス期の問題は非共感的な自己対象の反応によって、自己がまとまりをもてず、断片化し、適切な自尊心を持てないことによって起こる。この時期にのみ病因が特定されるわけではない。

内省・共感・情動調律 affect atunement

 自己心理学の概念としては共感から、情動調律に言い換えが進んでいる。
 内省  自分の内界を観察
 共感  相手になりかわって内省すること。データの収集。
 情動調律  共感による関係で結ばれた状態。


自己 self

 「自己の分析」の頃、コフートは自己を自己イメージ、自己表象という意味で使っていた。
 それが次第に「主体性の独立した中心。体験を受け入れる独立した容器」(Kohut & Wolf 1978)というように、「私 I」「私自身 myself」のような体験に近い experience-near まとまりを指すようになった。これに比べるとフロイトの自我、超自我エスという概念は体験から遠く experience-distant 、具体的なイメージを思い浮かべるのが難しい。


自己対象 selfobject(self-object)

 自己の一部として機能する外界の重要な人物を指す。ジェイコブソン、やカーンバーグのいう対象関係とは内的対象 internal object である自己表象 self representation と対象表象の関係であるのに対して、コフートの対象関係は、心的世界の中心である自己と一部が主観的な色彩を帯びた外的対象 external object の関係を指す。従ってコフート理論は現実の他者からの影響を重視するという点で外傷論に近い。


発達理論

 母親は赤ちゃんにまるで自己があるかのように反応する。母親の心の中のイメージとしてある自己を仮想自己 virtual self と呼んだ。
 コフートによれば赤ちゃんは自己主張する存在であり、自己対象からの共感的反応を当てにしている。
 赤ちゃんは自己対象(母親)の共感的な反応を通じて、徐々にまとまりを増してきて、生後2年目には中核自己 nuclear self が形成される。
 中核自己は向上心と理想という二つの極、その中間領域である才能や技術という3つの要素を持っており、双極自己 bipolar self とも呼ばれる。これら2つの極は一次的な自己愛の喪失に対する防衛として形成される。向上心の極は誇大的露出的な誇大自己 grandiose self が母親の共感的な映し返し mirroring、承認、響き返し echoing によってより現実的で成熟した向上心へと変化していく。母親が非共感的に接すると外傷体験となり、自己は断片化 fragmentationし、発達が停止してしまう。こころの構造には欠損 defect が残り、未熟な誇大自己が保持される。
 理想の極は理想化された親イマーゴ idealized parent imago であり、親が理想化を受け入れ、共感的に反応していると、赤ちゃんは最適な欲求不満 optimal frustration の中で徐々に自己対象への評価を現実的なものに改め、自分をなだめるという機能を内在化させ、自己は安定したまとまりを持つようになる。
 このような心的構造形成のプロセスを変容性内在化 transmuting internalization と呼ぶ。


自己対象転移(自己愛転移)

 自己愛人格障害の分析において、自己の欠損のために自己対象転移が引き起こされる。この転移状況が過去の外傷体験の繰り返しであるために、古典的精神分析の文脈では、マゾヒズム反復強迫などと語られるが、自己心理学的観点にたてば、あらたな成長を求める自己の健全さの現れである。

* 「自己の分析」における分類
理想化転移 idealizing transference
 理想化された親イマーゴ idealized parent imago の治療場面での再活性化
 阻害され満足されなかった発達要求克服の試み。
 古典的精神分析では攻撃性に対する防衛と見なされることが多かった。

鏡転移 mirror transference (Kohut 1971)
 「患者を認め、賞賛し、適切に褒めてくれる、応じてくれる自己対象からの確認を要求するような誇大自己が治療によって再生すること」(Lee & Martin 1991)

 1)未熟な無境界融合転移 archaic merger transference
 患者は治療者が患者の心中にある考えをわかってくれていると思い込んでいて、治療者が患者の手足であるかのような完全な支配を要求する。
 2)双子転移 twinship transference(分身転移 alter-ego transference)
 分析家が自分のようである、自分に似ていると仮定される。
 3)(狭義の)鏡転移
 治療者は別個の人間として体験されているが、患者を褒め、響き返し、映し返すことが期待されている。

 治療者の共感によって無境界融合転移→鏡転移→理想化転移と転移の質が変化し、未熟な誇大自己はしだいにまとまりのある自己へと変化する。

* 「自己の治癒」における分類
 1)映し返し無境界融合
 2)理想化無境界融合
 3)双子無境界融合
 これらのいずれも治療者が共感による共鳴をなくせば、無境界融合退行状態になる。


垂直分裂と水平分裂

自己愛人格障害の2類型
 水平分裂
  未熟な誇大自己が抑圧/否定されている。自己愛の栄養元が遮断され、自己愛が欠乏。自信喪失、抑鬱
 垂直分裂
  誇大自己が心的な現実的区域から排除されている。誇大自己は意識されている。


欠損理論