内的世界と外的現実
第1章 内的精神構造の概念化
■1930年代の境界例の考え方
1)分裂病との境界
境界分裂病 borderline schizophrenia (Ekstein)
偽神経症的精神病 Pseudoneurotic schizophrenia (Hoch & Polatin)
潜在精神病 latent schizophrenia (Federn)
2)性格障害
衝動性格 impulsive character (Reich)
かのような人格 as-if personality (Deutsch)
精神病的性格 psychotic character (Frosch)
■1950年代の境界例の考え方
自我脆弱性。精神病の予備軍、精神病そのもの、などと考えられていた。
口愛的攻撃性の強さから、前性器的段階への固着であると考えられたが、そうするとエディプス的な競争に対しても強い攻撃性を示すことの説明がつかない。
→古典的精神分析によるある段階への固着という概念では対応できない。
治療においても伝統的なアプローチではうまくいかない。
支持的アプローチ(Knight 1954)、パラメーター導入 (Eissler 1953)など古典的技法の修正が求められた。
■新しい臨床的証拠と理論的定式
メニンガー財団における研究 境界人格機構をもった患者には、古典的精神分析、支持的(抑制的)技法より、表出的な精神療法が有効。
境界例は精神病と神経症の境界ではなく、独自の構造を持つもの。(境界人格構造 B.P.O. Borderline Personality Organisation)
■境界人格組織の臨床像
1)分裂とその他の原始的防衛機制
・分割
・原始的理想化
・価値下げ
・万能感
・投射同一化
・否認 分裂に伴って生じ、分裂を強化する。
2)同一性拡散
空虚感、矛盾した自己認識や行動、表面的で不毛な他者認識
青年期の特色である同一性危機 (エリクソン) とは異なる早期幼児期に起源を持った重症障害。
3)現実検討能力 (カーンバーグ 1977)
自己表象と対象表象の融合は起こっていない。自己と非自己の区別がつく。
・幻聴、妄想が見られない。
・突飛な情緒、思考、行動が見られない。
・他者が自分の行動や思考のどの部分に当惑を感じているかを明確化していくことができる。
■内的対象関係とその構造論的発達
内的対象関係 対象表象、自己表象、この二つを結ぶ感情がひとまとまりの単位となって内在化される。これが下部構造となって自我、超自我、イドの構造が形成される。
古典的精神分析ではイドの欲動を抑圧することで、自我が生じる。
第2章 メラニー・クラインとその後継者たち
第3章 クライン学派に対する自我心理学からの批判
■クライン理論に対する自我心理学からの批判
1)死の本能は存在しない。
2)幼児が生得的に男女の性器、性行、エディプス葛藤についての知識を持っているとすること。
3)生物学的、心理的発達を無視している。
4)早期幼児期にエディパルな要素とプレエディパルな要素を押し込めること。
5)環境要因の軽視。
6)内的対象がどのように統合されて自我や、超自我といった心的な構造へと発達していくかについての考察がない。
7)正常な発達と病的な発達の区分がなされない
8)用語の曖昧さ。(投影性同一化の概念の混乱、分裂と抑圧を区別しない、など)
■クライン派の技法に関する自我心理学からの批判
1)患者の病態に関わらず同じ技法を用いること
2)転移の過度の強調と現実の軽視
3)防衛の軽視 早すぎる深い解釈
4)3の結果として、セッションが深まらない
5)セラピストがアクティブであるために、クライエントが従ってしまう。
■クライン理論の貢献
1)児童分析における貢献 児童も転移を形成できる。
2)早期防衛機制の技法的応用
3)精神病、境界例に対する理解、治療への貢献。
4)分析の初期に退行や未熟な防衛機制が現われること。
第4章 フェアベーンの理論と挑戦
●フェアベーン理論への批判。
・分裂と抑圧を区別しない。
・クライン同様、早期発達を生後数ヶ月に圧縮してしまった。
・分裂的態勢を最も初期の発達段階と考えたため、自己と対象の融合した母子双曲体についての考察がない。
−→ジェイコブソン・マーラーの考えのほうが優れている。
・イドの否定。フェアベーンの心の構造モデルはイドの概念と矛盾しない。
●フェアベーン理論への評価
・非人格的な本能論を批判した。
・クラインでは過小評価されていた母子関係の重要性を再確認した。
・ジェイコブソンやマーラー以前に自己表象−対象表象というモデルを提出した。
・心的構造がスタティックなものでなく、内在された対象関係の組織化から生じるという事実に注意を促した。
第5章 イーディス・ジェイコブソンの業績
ジェイコブソンの項を参照
第6章 マーラーの発達論
自閉症と幼児共生精神病を発達的に研究することで、青年及び大人の境界例を研究したカーンバークの研究を補い、実証した。
★カーンバーク理論との共通点と相違点。
ともに「悪い」体験が、分裂機制の最初の基盤になると考える。 )共生段階のよい情緒と悪い情緒の分化が最初のリビドー備給になる。(カーンバーグ)
1次的ナルシズム。自閉期の未分化な自己への未分化な欲動の備給。(マーラー)
★分化期への退行
ウイニコットの「holding」。
分離個体化の早い段階への1時的な退行が、自我の成長のきっかけとなる。
★マスターソン理論と批判
見捨てられ抑鬱の解消。
自己愛的口唇固着に伴われる自我の欠陥の矯正と修復。
原始的転移の分析が重要。
批判
1)支持的技法と解釈的技法が併用。両者はお互いの効果をうち消しあう。
2)報酬的部分単位と撤去型部分単位というモデルでは、原始的転移が単純化されすぎる。
3)分離−個体化の葛藤だけが強調され、分離−個体化葛藤がエディプス葛藤の発達の元で受ける影響を無視。
第10章 精神分析的精神療法の理論
・精神分析の定義 (Gill 1954)
「退行性の転移神経症の発症を促すとともに、分析家に、技法的に中立の立場から行う分析を通じてこの転移神経症の解決、解消をもはからせてくれるような、そういう治療的セッティングを確立すること」
1)技法的中立性
2)解釈
3)転移分析
本能衝動の分析
本能衝動からの防衛の分析
対象関係の分析
性格分析の問題
表出的精神療法
明確化、解釈
転移解釈。技法上の中立性。
支持的精神療法
明確化、解除反応の部分的活用
暗示と操縦。転移解釈は行わない。技法上の中立性の放棄。