ぐるりのこと/梨木香歩

 作家梨木香歩のエッセイ集。「春になったら苺を摘みに」の続編的作品。


 気をつけないといけないのは、すでに遺伝子レベルで馴染んだ資質と違って、後から学習して身につけたものは、ことさら不格好でがんじがらめの鎧のようになって、それ自体が主張して扱いに困りがちになることだ。(p.14)
 あー、なんか神田橋先生のようなこといってるなーと思ったら、

 精神科医神田橋條治は、その場合はただ、一緒に黙々と何かの作業をする、草むしりでも料理でも、そういうことを勧めている。(p.78)
 と神田橋先生登場。梨木さんも神田橋先生を読んでるんだね。
 エッセイのテーマは「境界」と「異質との共存」。システムを閉じれば同質性の中に閉じこもることができるが、やがてシステムは死ぬ。境界を開けば、外界の圧倒的な現実の前に自己の同一性は危機に追いやられる。その中でシステムがいかに多様性を抱えることができるのかを真剣に問う姿勢には、居住まいを正さずにはおれない。
 臨床家に読んでほしい作品です。
ぐるりのこと
梨木 香歩

新潮社 2004-12-22
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