聖別された肉体/横山茂雄

 ナチスの母体にトゥーレ協会などオカルト組織が影響を与えていたということは、真偽のほどは別にしてよく指摘されるところ。この書籍は「神聖動物学」(アリオゾフィ:非アーリア民族はアーリア人と動物との異種混交によってよって生じたとする説)というカルト偽史の著者であるランツ・フォン・リーベンフェルスの思想を軸に、前世紀初頭のオカルトムーブメントを網羅する。
 評論自体もフロイトの夢解釈から始まるのだが、附録の「歪んだ性意識」で指摘されているオットー・ヴァイニンガー(「性と性格」がベストセラーとなるが23歳でピストル自殺。彼の著作を巡ってフロイトとフリースが人間の両性具有性のオリジナリティを巡って争うことになる)、シュレーバー症例とのアリオゾフィの思想的近親性が興味深い。
 しかしこの横山茂雄(奈良女子大教授)という方の博覧強記ぶり、ただものではないと思ったらやっぱりただものではありませんでした。
http://www.asahi-net.or.jp/~ad8n-kwsm/ino/top.html
 バラードの訳者の「法水金太郎」というのも聞き覚えがあるし、心理学関係ではローレンス・ライトの「悪魔を思い出す娘たち」という虚偽記憶ものの翻訳もされていたとは。上記ウェブに寄れば小説も発表しているとのこと。とりあえずチェック。

聖別された肉体―オカルト人種論とナチズム
聖別された肉体―オカルト人種論とナチズム横山 茂雄

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