吉本隆明という「共同幻想」

吉本隆明という「共同幻想」/呉智英

 吉本隆明の批判本。吉本隆明っていっても30歳以下くらいだったら「ばななの父親のエキセントリックな人」くらいの認識しかないでしょうし、ぼくにしたって文庫化された「共同幻想論」読んで、ああこれが笠井潔の「テロルの現象学」の元本かと思ったくらい。それでも全共闘世代への影響ははかりしれないんだけど、今更批判して誰得?って感じで読み始めましたが、これがやっぱり面白かった。
 大衆原理主義っていうのが、まったく日本社会臨床学会日本臨床心理学会新左翼体質と同じなんだよね。患者とクライアント(=大衆)という弱者を設定して自分だけは別扱いにして専門家(=インテリ)を批判するという構造が。
 それで臨心と社心のこともちょっと考えた訳だけれど、分裂前の旧日本臨床心理学会新左翼の人たちが上層部の批判をしたときに、その批判には二層あったんだろうと思う。ひとつは心理職の専門性批判。もうひとつは医療現場の心理職からの大学教員批判。
 日本臨床心理学会から日本社会臨床学会が分裂したのは、患者=クライアント原理主義新左翼傾向の最も強い人たち。トロツキーみたいに世界革命論を訴えてセクト化していったわけ。再分裂後の日本臨床心理学会新左翼傾向もありながら、医療実践者として大学教員批判をしている人が中心になった。だからあんなに小さな団体が医療領域の国家資格化に絡むことになった。
 それでおもしろいのは、通常大学教員というのは急進的で原理主義的な若い世代をなんやかんやあって鎮圧しちゃって修正主義が勝つというのがパターンなんだけど、心理職領域ではまさかの原理主義が勝っちゃった。タリバーンが政権を取っちゃうみたいな感じ?よっぽど現実的な感覚に疎かったのか、理想主義だったのか。
 だけど、やっぱり日本心理臨床学会という団体が大学教員中心にできたら、原理主義の勢力は衰えていく。そりゃそうだよね。専門性否定って結局自己否定なんだから。それで臨床心理士っていう資格ができるわけだけれど、国家や他職種との外交の場面に出ると、どうしても妥協しなきゃいけないから、昔みたいな鎖国路線を選んだ。その中で国粋主義(心理職は医師にもまさるとも劣らぬ資格、それゆえ他の資格よりは全然偉い)が育っていく。
 紆余曲折があって臨床心理士は全体としては国家資格に対して修正主義的態度で臨もうとしているんだけど、ここで立ち上がろうとしているのは団塊世代中心のフロイトユング連合の原理主義なんだよね。そんなふうに考えるといや吉本隆明の影響大きいですよ。とっても迷惑な影響が・・・。

吉本隆明という「共同幻想」
吉本隆明という「共同幻想」呉 智英

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2013年03月01日のつぶやき