八本脚の蝶/二階堂奥歯

 奥歯さんは小学校3年の頃、図書館で「まほう」の本を調べて司書さんに出してもらった。確かに彼女はコトバの魔法を身につけたのかもしれない。彼女のコトバは彼女じしんを焼き尽くしたけど、彼女が地上にいない今もある一定の人々のこころを慰め、そして凍らせてるのだから。
 
 このウェブ日記を読み終えてから、ずっと心身不調で、まあそのショッキングな内容を考えれば無理もなく、だいたい借りては見たものの読むとどうなるかはおよそ想像がつき、ずっと本棚に並んでいた。返却日が近づいて読み始めたと思ったら一気に読んだ。もちろんそのあふれるような才能が失われた虚無感はあるのだけど、自分が感じていることがもう一つコトバにならず悶々としていたが、それがようやくコトバになった。それが解離ってこと。小さな死だといってもいい。それが積み重なって大きな死ができる。

 会ってもいない人のことを臨床に関わる人間ががとやかくいうのは気が引けるけれど、


解釈して、読み取って。そして教えて、あなたの読みを。その読みが説得力を持つならば、私はそのような物語でありましょう。
 という奥歯さんならきっと許してくれるでしょう。説得力があるかどうかはあんまり自信はないのだけれど。
 一読すればマゾヒズム身体改造、ギニョールなものへの憧れは明白で、それが彼女を殺したというように見えるけど、僕はその説明には何かが足りないと思う。血なまぐさい話をいくら書いていても、奥歯さんはとても女の子らしく、家族や恋人たちへの愛情もまっすぐだ。そういう矛盾したシステムを両立させるために彼女が取っていた方策が解離だと思う。死の直前の彼女の苦しみは本当の実存的な苦しみではあったけれど、一方でそれを客観的に記載し、2chの反応も確認しつつ、自分の最後を書きとめ、それに従って死んだ彼女もいた。
 この僕が感じてるのも多分解離、恐らくは彼女のコトバによってもともともっていた解離的な傾向が強まってるのだろうと思う。そして奥歯さんに習って、どこでもない彼方にコトバを投げている・・・。
 そもそも昔は解離的な傾向をもった人がパソコン通信なんかにつどっていたように思う。nifty の心理学フォーラムで解離性障害のことがあんなに話題になっていたのは、時流ということもあったけれど、僕ら自身が解離的であったことを示していたのだろう。
 しかし、そういう解離がデフォルトの時代がそろそろやってきている。虐殺の中でどこかにおしこめられたコトバにならない何かを僕たちはさがしに行かなければならない。
八本脚の蝶
八本脚の蝶二階堂 奥歯

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 紹介はしたものの残念ながら品切れ。まだ発売2年もたっていないのに・・・。このルドンみたいな蝶の装丁もすてき。