「終末期と言葉 ナラティヴと当事者」/「4本足のニワトリ―現代と子どもの表現」/「老夫婦」

終末期と言葉 ナラティヴと当事者/高橋規子 小森康永

 日本の家族療法界、いや臨床界は昨年の冬に高橋規子さん、そして今年の秋に中釜洋子さんをともに癌で失うという大きな損失を被った。ぼく自身は家族療法(高橋さんについてはもっと広い呼称がふさわしいように思うけれど)をプロパーにするものではないけれど、家族やシステムに関わらない臨床家はいないし、中釜さんは大学の先輩でもあり、個人的にも大きな衝撃を受けた。
 衝撃、というのは単に個人的な動揺というだけではなく、力動的心理療法の限界を感じざるをえないということも含まれている。大切なものを失った人に対して力動的心理療法は確かに効果を示すことができるだろう。しかし、死にゆく人に対してはどうなのだろうか、という問いに直面せざるを得ない。
 連想は安克昌さんのあまりに早すぎた癌の死の記憶のあたりも巡る。
 喪失を単なる損失にしないためには、向こう側に言ってしまった素敵な臨床家ことを語り継ぎ、再び友とする/思い出す(re-memember)必要があるのだと思う。そして死へと向かう存在である人に生のうちにありやがては死にゆく人がかけられる言葉は何なのか考えなければならない。

 
 著作は高橋さんの原家族の話から始まる。おふたりのナラティブを巡る論考と事例が続いた後、末期癌によるホスピス転院を打診する高橋さんのメールからふたりの5ヶ月にわたるやりとりがそのまま活字になっている。最後に書いた論文にクライアントと共通する自らの「お姫様願望の話」を付けくわえて小森先生に送られたのが昨年の11月3日。9日に最後となるメールを小森先生に送られて、13日に永眠された。


 事例Dについては、やはりジョイニングというか治療同盟の作り方がばつぐんにうまいなと思う。「あなたのことだとかたりづらいだろうから友人の話をしませんか」っていう誘いかけは自分にはちょっと出てきそうもない。こういう外在化は義母との仲を不必要に険悪にしないですむ。ここらへんは師たる吉川悟先生譲りと言うところだろうか。
 いったん関係がついてからの取り扱いは力動的な心理療法でも、コラボレイティブなアプローチでもそうは変わらない。時には葛藤がはっきりあらわれているのだから明確化した方がいいのでは?と思うんだけど、そういうやり方の方が悪役を作らなくていいし、クライアントのペースですすむのは確か・・。(たとえば自分ならクライアントの方に親族が「不慮の事故」で亡くなったという発言があったら、必ず明確化すると思う。)
 

 最後にタイトルに関してはメールのやりとりで小森先生が提案された「言葉は生の側にある」の方が断然良かった。パソコン打っている手の表紙よりもゴーギャンの方がふさわしかった。それはとっても残念。佐々木中さんの「アナクレタ」や「切りとれ、あの祈る手を」もメールの中で語られていた。


 ともかく読むべき本であることは確か。雑誌「臨床心理学」のベスト5でもきっと複数の人があげることになるでしょう。
 「定義的祝祭 definitional ceremonies」に関しては「くぎり式」って新訳を考えてみたけど、どうかな?

終末期と言葉
終末期と言葉高橋 規子 小森 康永

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4本足のニワトリ―現代と子どもの表現/宮脇理

 エルスケンの写真集に出ていた大阪警察署主催の「公衆衛生と防犯展覧会」で陳列されていたレイプされた女性の人形のことをググってGoogle Books でヒットしたので読んでみました。
 子どもが四本足のニワトリを書いたという子どもバッシングの雑誌記事をもとにした著者たちの自由連想という感じです。ちょっと教育学臭が強くて(特に第5章「青少年達の想像できないような犯罪」って表現とか。何て想像不足。)辟易するところもありましたが、美術教育と危険な見世物としての博覧会、つまり Google でヒットした第4章は面白かったです。
 その第4章に先日多賀新のブックカバーのイラストがやばいんじゃないかとブログに書いた乱歩の「悪魔の紋章」の話が出てました。誘拐して殺した女性の死体を博覧会に展示する話だと言うことでした。ついでにいうと多賀新の展覧会も現在市川市で行われているようです。もう少し近ければ見にいきたいのですが・・・。

4本足のニワトリ―現代と子どもの表現
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老夫婦/ジャック ブレル ガブリエル バンサン

 フランスの歌手ジャック・ブレルの歌詞に絵をつけたもの。最初に全部の歌詞が出ちゃっているので、絵本として見る楽しみが半減。
 こんな曲らしい。

老夫婦
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Sat, Dec 01

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