「サリヴァン、アメリカの精神科医」/「絵本 化鳥」/「ちょっとまって」
サリヴァン、アメリカの精神科医/中井久夫
日本を代表する精神科医、中井久夫先生が対人関係学派の祖、ハリー・スタック・サリヴァンについて書いた文章と翻訳本の後書きをまとめたもの。後書きは元本で読めるので、読みどころは書籍化されていない二つの文章と翻訳「回想 ハリー・スタック・サリヴァン」、そして後書き。この翻訳はサリヴァンの生の姿が描写されていて面白かった。面接では怒鳴り声は飛び交うけれど、身体的な暴力が振るわれたことはなかった、サリヴァンの患者で自殺した人はほとんどいなかったっていうのが、ウィニコットの患者には自殺が多かったけれど、マスド・カーンの患者には自殺が少なかったていうのを連想させた。ようするにサリヴァンは直面化が得意でアグレッションをうまく発散させるのが得意だったんだろう。
サリヴァンの翻訳をするときに文体決定に2年をかけ、講演であればどんな場所かを調べるという中井先生をわれわれはつい神格化しがちだけれど、やはりそれは中井先生とサリヴァンの間に生じた人間化 personification に過ぎないとも思う。文体に2年をかけるのであれば「現代精神医学の概念」の索引と訳語選定と基本的な文脈のチェックにもう少し時間を割いた方がバランスが取れていたのではないだろうか。
最後にサリヴァンの肉声テープの存在について触れられているが、これが公開されず一部の研究者にしかアクセスできない現状は非常に残念だ。誰もがアクセスしうるデータでなければそれを元にした論文は意味がない、と思う。
サリヴァン、アメリカの精神科医 (始まりの本) | |
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絵本 化鳥/泉鏡花 中川学
泉鏡花の短編「化鳥」を絵本化したもの。知らないで読んだら現代の作家が書いたのと間違えちゃうんじゃないかと思う。森見登美彦と通じる・・・というか本当は森見登美彦が影響受けているってことなんだけれど、獣と人間の間がとても近かった世界のお話。もちろん鏡花の「化鳥」は結構な長さがあるので本文はダイジェストなんだけど、ほんとうに中川学さんの絵ともぴったりマッチしていてパーフェクトな仕上がり。巻末に原文版も載っている。
絵本 化鳥 | |
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ちょっとまって/岸田今日子 佐野洋子
ふたりとももう鬼籍にはいられてしまったけれど、豪華な顔合わせですね。佐野陽子さんの対談本で触れられていたので読んでみました。
岸田今日子さんの娘さん、まゆちゃんに話すためにつくられた「シマネズミになぜ縞ができたか」の絵本化。お母さんが自分のために作ってくれたお話が佐野洋子さんの絵で絵本になっているなんてほんと羨ましいですね。
ちょっとまって (日本傑作絵本シリーズ) | |
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