開業して一人前

 つなでさんばかりに絡んでしまって申し訳ないんだけど、私の関心事とも重なるのでご容赦ください。
 つなでさんのブログで氏原先生の心理が「開業して一人前」という発言を読みました。確かに開業できるだけの実力をつけるという意味では正しいのだけれど、例えば精神分析家が開業して成功できたのは、大戦前のウィーン、成長期のアメリカ、経済破綻前のアルゼンチンとか、高度に階層化が進んだ社会だと思います。アメリカはその後、新自由主義の自己責任論で薬物中心に傾きました。ヨーロッパでは開業と平行して、無料で精神分析を行おうという運動がありましたが、現在はどうでしょうか。日本でも階層化・自己責任論は強まりそうですが、国民皆保険などの保護的な政策とどのあたりで折り合いがつくのかまだ見えてきません。ともかく単に心理の能力だけに還元してしまうのは危険だろうと思います。
 ともかく心理開業が職業として広く成立する社会と、弱者でも公的扶助によって心理療法を活用できる社会はベクトルが逆だろうということです。

 またつなでさんも指摘しているように、横断資格で最も問題となってくるのは開業の問題でしょう。国家資格臨床心理士が成立したとき、確かに病院では医師の指示が必要になるわけですが、ユーザーからみれば開業であろうが、病院であろうが、そう面接の内容に差はないわけです。医療でたとえ保健診療が可能であって価格上の優位が保てたとしても、多くの国家資格臨床心理士が誕生すれば安価で開業する方も出てくるでしょう。ここらへんが精神科クリニックの利害とバッティングすることは十分考えられます。利害が衝突する以上、ユーザーの立場を考えつつ、ある程度政治的な解決が必要となると思います。先の国家資格化ではここらへんがやや自覚が足りなかったと言えるでしょう。横断資格を実現させるための現実的な政治力・交渉力が臨床心理士会にあるかどうかが問題だろうと思います。横断資格にそう反対するわけではないのですが、いつまでも医療分野の国家資格化を先延ばしにはできません。やはり医療とそれ以外の領域を分ける方が実現性が高いのかなと思ってしまいます。