「見捨てられ抑うつ」理論で日本でも一世を風靡したマスターソンですが、その後の著作はしばらく訳されてませんでした。しかし、その間も着々と著作を発表し、理論の精緻化を行っていたようです。
この本でも出版されているあらゆるパーソナリティ理論にチャレンジし、リネハンの弁証法的行動療法にも当然いちゃもんつけてます。
「自己愛と境界例」のころに比べると、新たにスキゾイドパーソナリティ障害が鑑別診断に加わっています。スキゾイドパーソナリティが対人関係を求めていないわけではなく、サド・マゾ的な対象関係と、支配的な対象から逃れて亡命する自己の対象関係が分裂した内界構造を持つという見方は新鮮でした。こういう見方をすると一見境界性パーソナリティ障害にみえる、性的逸脱行動などを持つ人が、実はスキゾイドパーソナリティであるというような診断もありうることになります。
A.N.Shore の表記が「ショー」ですね。神谷先生には「ショア」表記をお薦めしたので、心配になって一応また確認。百科事典などでは「ショア硬度」、ダイナ・ショア(アメリカのミュージシャン)、ジェイン・ショア(エドワード4世の愛人)等々なので、やっぱ「ショア」で良いでしょう。
"self-in-exile"の訳語が「流浪する自己」ってのはいまいち。サディスティックな対象から逃れるという含みがあるので、「亡命自己」がよいと思います。原文には当たっていませんが多分、exhibitionist を「露出症」と訳してます。日本語では普通「自分の裸体をさらす人」という意味で使われることが多いので「自己顕示欲の強い人」の方がよいでしょう。
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