精神分析と学校というおよそなじまないと思われるものを結びつけた書籍。一番の収穫は教師を対象としたタビストック式のグループ・アプローチについてウィッテンバーグが書いているところかな。うーん、やっぱり古典的な分析の解釈って学校現場では今ひとつ。大学生の不適応を幼少時のマザリングの失敗か何かに結びつけられても、という感じ。
やだなと思ったのはいかにも表層的な深層解釈で、「シュリンク(精神科医の俗語)」って言葉を使ったから、人間関係を縮ませる人と感じていたとか、ロック・バンドの「ジェネシス」のテープを生徒が貸してくれたから、「ジェネシス(創造/生殖)の喜びを与える、豊かで寛大なパートナー」になるという理想的な自己イメージを表しているとか。
まあ多分貸してくれたのが King Crimson だったら「世界の王になる願望」、Yes なら「著しい他者迎合性」みたいに解釈するんだろうね。
この本が書かれたのは1983年で改訂版が1999年に出ているから、このエピソードは追加された可能性もあるけれど、"Invisible Touch(1986)"の頃ならまだしも、1980年代前半のジェネシスを「ポップ・ミュージック」と割り切って良いかという問題はある。「Abacab」を出したのが1981年だから、まあ可能性としては高いかもしれないけど、何のアルバムを貸してくれたかによって解釈だって大きく変わるのではないか。ピーター・ゲイブリエル時代のジェネシスだったら、エキセントリックな孤立っていうテーマが隠れているのかもしれないし、『そして3人が残った』だったら、ゲイブリエル脱退後の喪失というテーマがあるのかもしれない。そもそも、自分の好きなものを貸してその世界を見せてくれる子どもに対して、表面的な病理だけ拾って得意になってるのがとっても嫌な感じ・・・
訳はタイトルを「学び教えるという情緒的体験」と同格の of を活かして訳せないもどかしさが全体を漂う感じ。holiday(多分) は「休暇」じゃなくて「長期休暇・長期休み」と訳したい。
会話文が全然会話になっていないのも残念。
学校現場に生かす精神分析―学ぶことと教えることの情緒的体験 | |
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