「偽りの大化改新/中村修也」

 そもそも大化の「改新」という名称自体がうさんくさいし、ぼくらが歴史で習ってまず頭に浮かぶのは、「改新」という名が示す政治的な改革というよりはなによりもまず中大兄皇子中臣鎌足による蘇我入鹿の暗殺というドラマティックなできごとだろう。近年はクーデター部分の名称としては「乙巳の変」が用いられるようで、歴史的用語としてはこちらの方が確かに正確に思える。
 確かに考えてみれば、乙巳の変がクーデターであったとすれば中大兄皇子が即位しないのは不自然だ。
 筆者の主張するところを要約すれば、実は乙巳の変の実質上の首謀者は、従来傀儡の大王と見られていた軽王子=孝徳天皇であり、大化の改新の記述には中大兄皇子天智天皇をおとしめるための改竄が加わっているというもの。
 たしかに日本書紀の執筆は壬申の乱で天智系から皇位を簒奪する天武系の主導の下に行われているのだから、天智天皇に対する改竄は十分にあり得る。我々が「改新」という名前から思い浮かべてしまうヒーロー像も、実は血の穢れに係わらせることで中大兄皇子を貶める目的があったという説はなかなか新鮮だ。
 ただミステリにおける「信頼できない書き手問題」ではないけれど、推測の部分があまりにも多いので実際どうだったのかはわからないというのが正直なところだ。まあ与えられたテキストを鵜呑みをせず、想像を巡らす必要があると言うことは確かなことなのだろうが。

偽りの大化改新 (講談社現代新書)
偽りの大化改新 (講談社現代新書)中村 修也

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