他者の狂気/トビ・ナタン

 「臨床民族精神医学試論」というサブタイトルが付いています。筆者はフランスの臨床心理学者で「民族精神医学外来」という多民族のための外来を開いてきた人です。民族のエスノはエスノメソドロジーエスノに感覚としては近く、カタカナにしたいところですが、「臨床エスノ精神医学」ではおわさまりが悪いし、「クリニカル・エスノサイカイアトリー」では長すぎ、「臨床エスノサイカイアトリー試論」ぐらいがよかったかと思います。
 まだちらっと見ただけですが、知らない固有名詞は調べずそのまま乗せるという豪快な翻訳です。筆者は精神分析を論理的背景にしているようなので、精神分析に詳しい方を訳者に入れた方がよかったと思います。

  • x 「メアリー・バルネス」 → 「メアリー・バーンズ」 名前はほとんどフランス語化しています。「分析の隠れ身」のローレンス・キュビーが「クービー」、対象関係論のガントリップが「ギュントリップ」、フェアバーンが「フェールベルン」。この方は「狂気をくぐりぬける」をジョセフ・バークと共著している当事者の方ですね。女版アントナン・アルトーと書いてあったので誰だろうと思いましたが、ウェブサイトを発見してメアリー・バーンズのことだと判りました。「狂気をくぐりぬける」は絶版の模様。

 http://www.mary-barnes.net/

  • xi バサグリア(Basaglia) → バザーリア  脱施設化運動を推進したイタリアの精神科医・・・
  • xxxvi 「1990年からショアーの生存者の子どもたちの」 ショアーがいわゆるホロコーストユダヤ人虐殺ということが判っているのでしょうか。「1990年から子どもの頃ホロコーストを生き延びた人々の」
  • Roheim の o のうえのアクサンがあったりなかったり
  • フロイトの「不気味な異様さ」 定訳のある論文の訳を変えるときは注釈を入れるべき。
  • p.97 タウスクの研究「統合失調症の経過に影響を与える装置の発生について」→「精神分裂病の経過における『影響機械』の発生について」 機械によって遠隔操作されている妄想を持った症例のことです。
  • 「移行対象」と「過渡的対象」の表記揺れ、しかも索引にはなし、というか精神分析関連は何がキーワードがご存じない様子・・・

他者の狂気―臨床民族精神医学試論
他者の狂気―臨床民族精神医学試論トビ ナタン Tobie Nathan 松葉 祥一

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