ルーン文字の世界/ラーシュ・マーグナル・エノークセン

 ルーン文字とか、北欧文化には結構疎いので読んでみました。オーディンと普通表記される北欧の主神がオウズィン、世界樹のイクドラーシルがイックドゥラスィットゥル、人の住む世界ミッドガルドがミズガルズルと表記されていて新鮮な感じ。北欧神話というと叙事詩「エッダ」を思い浮かべるけれど、この「エッダ」という呼称自体後世与えられたものに過ぎないとのこと。
 書籍自体はまじめな学術本ですが、研究史に焦点をあてているためにオカルティズムとの関連についてもかなりふれられています。一番有名なのは、ナチスヒムラーが親衛隊のマークとしてルーン文字のSを二つ重ねたものを使ったことなどですが、その思想的背景にはオーストリア神秘主義者グイド・フォン・リストゥの主張する「原18文字型ルーン列」などと呼ばれる神秘主義的・象徴的意味づけがあるようです。オカルティズムに取りいれられたのも故のないことではなく、遺跡に刻まれた蛇の形に刻まれたものや、ほとんど紋章化されたものをみると、漢字同様かなり呪術的色彩の強い文字だったようです。アイスランドでもルーン文字を使う呪術師が魔女狩りにあったなどの歴史も記載されていますし、死語となってからもその呪術性から暗号的に使用されたり、古代史研究のユーラソンは文字を漢字のようにキリスト教的に象徴解釈しています。これなんかちょっとクライン派のしそうな解釈でもあります。例えばpに似た文字を「胎内の救世主」と解釈するとか。また20世紀前半にはルーン研究家のスィグードゥ・アグレッルがゲマトリアみたいな数魔術理論を構築し、文字に独特な意味づけを行いアルファベットにあたるフサルクの順を変えることを提唱しています。
 そういうことを考え出すと、Windows XP の xp は experience の xp ということになってはいたけど、ギリシア語で救世主=キリストの頭文字だから二つの文字を組み合わせるとキリストの象徴、従ってキリスト教の世界的支配をあらわすのではと妄想が広がってしまいます。
 日本の神代文字などとは違って実在の文字ではあるのですが、さまざまな投影・妄想を引き受けた言語ともいえます。ルードゥベックによるナチスの人類北欧起源論の祖先ともいうべき偽書アトランティスとは祖国なり」も取り上げられています。
 ルーン文字自体、時代の変遷と共に大きく表記や読み方も変わっているため、この書籍はほんの表層をなでたみたいな感じですが、いつかきちんと学んでみたい言語ではあります。(いつだ!)。オカルティズムに関心がある人も押さえておきたい一冊。

ルーン文字の世界―歴史・意味・解釈
ルーン文字の世界―歴史・意味・解釈ラーシュ・マーグナル・エーノクセン 荒川 明久

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