神々の「習合」という考え方がある。ある民族の神々が、民族が他民族に支配、同化される仮定で別の神と同一視されるようになるというものだ。
ちょっと考えると、一神教のキリスト教に習合的なものはないような気がするが、そうではない。父と子と聖霊という三位一体にしろ、ユダヤ教から流れる多神教的痕跡の一応の合理的解決にすぎないし、キリスト教が世界宗教化していくなかで、他宗教の要素を巧妙に取り入れることで浸透への戦略が練られたのである。
父と子という垂直的な関係を強調するキリスト教において、聖母マリアというイコンは、ローカルな地母神と習合されて、母系的な伝統を持つ文化への浸透において大きな役割を果たした。
本書はそうした聖母像の日本への変容されての浸透におけるイメージの変遷を追った労作である。また本書は著者の博士の学位請求論文であり、残念なことに著者はその提出の直後に急死されたので、遺作ということにもなる。
最初の方はキリスト教の世界浸透の歴史的背景などなかなか聖母イコンの話にならないので、ちょっと我慢が必要だが、聖母の絵の話になるとさすがに引き込まれる。
日本への浸透をはかるために元日を「聖母の日」と定めるなど、キリスト教の世界戦略ってなんかグローバリズムのマーケティングの元祖って感じだね。
聖母像の到来 | |
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