能動的な異世界視覚化のこころみ 『心霊写真/ジョン・ハーヴェイ』

 日本人が心霊写真という言葉でイメージするのは次のようなものではないか。何気なくとった旅行写真を現像してみると、人が立つことのできないような場所に人影が、というような無意識的、時に撮影者の霊感と結びつけられるが、あくまで「意図的に見る」のではなく「見えてしまう」のである。
 この書籍に書かれているような19世紀心霊主義にまつわる「心霊写真」は、むしろその積極的な霊界定着化の努力によって特徴付けられ、それゆえ日本のサブカルチャーとしての「心霊写真」と紛らわしいタイトルは商業的にやむをえないこととはいえ残念である。「霊視写真」、「写真と心霊」などのタイトルの方が内容とぴったりのような気がする。
 とはいえ、ラップ音、ポルターガイスト現象など19世紀心霊主義がその後、ポップ化、サブカル化していく道筋と同様に、非常に日本化された霊と日常の共存という「日本的心霊写真現象」の歴史的な源泉を探る試みと捉えるのも面白いかもしれない。
 この本にも西欧の赤ちゃんの死後記念写真が載っているが、こういう保存への願望に対する文化差っていうのも興味深い。
 精神医療領域では、統合失調症の劇作家として有名なスウェーデンのオーギュスト・ストリンドベリが、錬金術と自然の神秘形態に関する関心から行ったという写真を用いた「セレストグラフ」というのも初耳だけれど面白かった。レンズを使わず、あるいは未研磨のレンズを使ったり光学的実験によって奇妙な現像を行ったのだが、その写真は1世紀後にハップル宇宙望遠鏡が撮影したイメージに驚くほど似ているという。まあ、確かに何も言われないで見せられれば宇宙の写真と思うだろう。サブカル的には「と学会」に取り上げられそうなテーマではあるが。

心霊写真―メディアとスピリチュアル
心霊写真―メディアとスピリチュアルJohn Harvey 松田 和也

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