精神科医のリチャード・ワーナーというと『統合失調症からの回復』で、向精神薬の開発は劇的に統合失調症の治療状況を改善したわけではない、という結構過激な主張を統計的な裏付けをもって論証した論客だけれど、この本もまた統合失調症の予防・早期回復への具体的な方策を論じていておもしろかったです。
13の提案は下記の通り
- 産科合併症のリスクに関する教育的キャンペーン
- 薬物使用者への個別的カウンセリング
- 精神病的症状への認知行動療法
- ストレスによって誘発される精神症状にはベンゾジアゼピンを用いる。
- サービス提供のあらゆる場面への当事者参加
- ケアする人に無税の介護手当を
- 家族に対する心理教育導入へのマーケティング
- 急性期治療を病院でなく家庭で
- ソーシャルファーム:当事者が働く企業
- 障害年金制度の改善
- 賃金の補助
- ニュース・娯楽メディアへのロビー活動
- 地球規模の反スティグマキャンペーン
マリファナを吸う統合失調症の患者は重い症状が少なく、入院も少ない、など著者らしい「過激」な主張も。統合失調症の発生そのものを抑制する1次予防はできないと思っていたけど、産科合併症のリスク計算モデルを導入すれば確かにマクロ的には障害の発生率を抑止できる可能性はある。
イタリアでは患者のケアに当たる人に月に800ドルの介護手当、コロラド州で行われている精神障害者を精神保健従事者として雇用する試み(すでに100人以上を雇用)とか先進的な試みもしることができた。
日本の現行の障害年金の制度も、症状が軽くなってしまうと年金が打ち切られ生活していけなくなるので、勤労意欲を疎外するというのはアメリカと同様。費用対効果を考え、就労への意欲が沸くような年金制度をつくらなきゃいけないっていうのもほんとにその通りと思う。
アカデミー賞を受賞した映画『カッコーの巣の上で』が1975年にオレゴン州の病院で作られたとき、プロデューサーたちは端役の俳優に実際の入院患者を使おうとした。しかし、彼らはそのアイデアをとりやめた。なぜなら、本当の患者は、大衆の精神疾患患者のイメージにマッチするほど奇妙には見えなかったからである。 (『統合失調症回復への13の提案/リチャード・ワーナー』 p.121 翻訳は一部改変)
統合失調症回復への13の提案―とりまく環境を変革するために | |
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