「現実感の発達の諸段階」(1913)
強迫神経症患者の魔術的万能感の考察を通じて、快感原則に支配された魔術的な万能感の中に住む赤ちゃんが、現実原則に支配される現実的な認知へと移行する現実検討能力の発達段階を検討している。
1)無条件の万能感の時期
2)魔術的幻覚的万能感の時期
3)魔術的みぶりに助けられた万能感の時期
4)魔術的思考と言葉の時期
フェアベーンのスキゾイド人格、ウィニコットの移行対象、コフートの変容性内在化などの先駆的な考察といってもいいだろう。
「精神分析の発達」(1923)
出産外傷説で有名なオットー・ランクとの共著。治療期間の短縮をめざす。
従来の精神分析で強調された記憶の想起に対して体験を重視。
「Thalassa(海) 性器性理論」(1924)
性行為の象徴的解釈。「受身的対象愛」「象徴等号」というとバリント、クラインを思い浮かべるかもしれないが、フロイトの構造論の発表の翌年、すでにこの論文で述べられている。
積極法(Active Technique;1926)
自由連想中に患者の緊張が高まった際に、一定の好意やふるまいをほめたり、禁止や命令を行うことによって抑圧された無意識の材料の意識化を促進する。
フロイトの禁欲規則、受動性の批判。
「患者の期待なり要請なり欲求なりに積極的肯定的に応答」(バリント 1967)
「子どもと大人達との間に起こる言葉の混乱」(1933)
性的虐待を受けた患者が「攻撃者のとりいれ」を行い、隔離を使ってトラウマを処理すること。神経症の外傷的側面を考察。分析家を大人、患者を子どもに例え、分析者の要求に合わせようとする患者の痛々しさから、精神分析の外傷的な側面に注目する。
弛緩療法(relaxation therapy;1930)
「分析状況で分析医の転移を通じて過去の両親との関係から与えられた心的外傷が情緒的に再生される際、分析医が患者に対する誠実さ、受容、人間的な愛情を向けることによって、患者がより親しい、よりよい幼児期を再創造する」こと(小此木,1975)
晩年
身体疾患のために分析を続けられなくなる。患者達は絶望するか、激しい鬱憤を募らせるだけだった。フロイトの恩寵をめぐってライバル関係にあったジョーンズは、フェレンツィは精神病にかかったとデマを流す。精神分析では退行のネガティブな面のみが強調されるようになる。30年ほどクリスなどの退行の肯定的側面への着目は無視された。