統合失調症の患者さんへの精神分析的なアプローチ。時代遅れといわれるかもしれないけれど、いわゆる精神病圏の患者さんたちに対しても精神療法的アプローチが有効であるということは、ぼくも精神病院勤務時代の経験からも実感しているところ。でもちょっとひっかるのは、やっぱり現実的なこと。
松木先生はこのような患者さんにも週4回の標準的な精神分析療法を勧められているけれど、そのような料金をまかなう余裕のある患者さんが果たしてどれだけいるのだろう。現実的には、入院患者さんに対して、診療報酬にはつながらない形で行うところがせいぜいではないだろうか。ちょうど平行して岡野先生の「治療的柔構造」を読んでいて、15分の外来診療時間を確保するのが、5分で患者さんを診察する同僚医師にいかに圧迫するかということを読んでいたから余計気になってしまった。もちろんぼくたち心理職のカウンセリングも医療制度的には直接お金にならないわけだから、お金にならないからよくないという短絡的な話ではない。
一方で外来診療を5分で済まされる患者さんがいるなかで、精神分析という形はあんまりにもトゥー・マッチじゃないだろうか。病棟医であるならできて一人か二人の患者さんじゃないだろうか。しかもその患者さんをどうやって選ぶのか。一度分析を始めたら、はい交代して終わりというわけに行かない。この本にも書かれているように精神病圏の人との関わりは長期化する傾向にあり、多くは治療者の方が先に病院を辞めていくのだから。すごく運良ければ、別の治療者に引き継げるけど、それはやっぱりレアケース、普通は分析の手厚い一対一の関わりから放り出される、と患者さんから見たら感じられるのではないか。
だから集団療法がやっぱりいいと思うのですよ、治療者だけでなくグループ全体が患者さんを支える構造が。
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