死の内の生命 ヒロシマの生存者/R.J.リフトン

 日本で外傷(トラウマ)が社会的に注目されたのは、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件以降・・・ということになっているけど、ほんとうは違う。みんな忘れているけれど、原爆というさらに巨大な外傷体験がこの国にはあった。僕たちも小さい頃から教育されて、その物理的な恐ろしさは何となく見当がついても、それが精神に与える影響については過小評価しているかもしれない。
 リフトンは精神科医精神分析の教育を受けエリクソンに師事した人。来日し被爆者にインタビューを行い1968年に本著作を発表。生存者とは現在でいう犠牲者に変わる肯定的な意味合いの「サバイバー」の意味で使われている。もっともリフトンは原爆を落とした国籍を持つものとして、その肯定的な意味づけが被害を否認する側面があることを指摘しているが・・・近著にはオウム真理教を扱ったものもある。
 村上春樹地下鉄サリン事件を扱った「アンダーグラウンド」の30年前にこのような著作が書かれていたことに驚く。
 残念なことに絶版。ぜひ再販を望むところ。
 ただ邦題の「死の内の生命」はいただけない。原題は "Death In Life" ゆえ、「生の中の死」が良かろう。(まあウルトラセブンスペル星人の回が欠番になるように、被爆者関連には神経質になるという時代背景があったのだろうが)

  • p.214 これに相当する西洋の諺(「巨人に肩車した小人には、巨人よりも遠くが見える」)は、よくアイザック・ニュートンに結びつけられているけれども、実際は紀元一世紀のダイダカス・ステルラまでさかのぼる。 → Didacus Stella は16世紀の神学者