「精神分析治療で本当に大切なこと―ポスト・フロイト派の臨床実践から/青木滋昌」

 日本語で姓が三文字で表記され、最初が「ラ」で始まる精神分析家はまあ「ラカン」を覗くとして、結構混同されています。ライヒもランクもライクも結局はアメリカに移住したというあたりの共通点があってまぎらわしくはあります。性の革命を訴え「オルゴン・ボックス」など疑似科学の方へ精神分析から逸脱していったライヒ、出産外傷説から中断療法などの試みを行い、ロジャーズにも影響を与えたランクが結構翻訳本も出ていてよまれているのに比すると、ライクは著作もたくさんあるのにまったく邦訳もされずいまひとつ地味な印象があります。しかし、フロイトが「非医師分析の問題」で擁護しているように、ずっと医師中心であったアメリカの精神分析の世界で、非医師による精神分析という伝統を作り上げ、いまやアメリカではこちらの方が主流となっている他職種に開かれた分析家というヨーロッパの伝統を守り続けたライクの貢献は大きいと思います。
 著者はニューヨークのライクが創設したNPAPで分析家の資格を取得したサイコロジストです。
 NAPAは精神分析の諸学派理解を統合したアプローチのようで、地層論、構造論、対象関係論、自己心理学派など諸学派からの理解を行っているようです。分析の様子はかなり詳しく書いてありますが、やりとりだけをみているととても精神分析とは思えない、というかリジッドな精神分析家は必ずこれは精神分析ではないということ間違いないでしょう。電話相談や、スポトニッツなどから影響を受けていると思われるジョイニング技法、逆転移開示に関しては何やら戦略的なアプローチの匂いまでします。といっても著者の方はそういう意識はないでしょうが。
 精神分析かどうかをまず考えてしまうのは、精神分析家の致命的な宿痾なので、そんなことはどうでもよくて、特に臨床家の実像が見えるという点で、ギターを抱えた著者近影もそうですけど、好感を持ちます。
 読みやすい本なのでご興味のある方は読まれてみると良いと思います。

精神分析治療で本当に大切なこと―ポスト・フロイト派の臨床実践から
精神分析治療で本当に大切なこと―ポスト・フロイト派の臨床実践から青木 滋昌

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