バゴンボの嗅ぎタバコ入れ/カート・ヴォネガット


 1999年に出版されたカート・ヴォネガットの短編集。50年代から60年代初めにかけて、「プレイヤー・ピアノ」、「タイタンの妖女」、「母なる夜」、「猫のゆりかご」などの長編がかかれたのと同時期とはいえ、広告をたくさん載せたいわゆる「スリック雑誌」に書かれた中間小説がほとんどで、いわゆるヴォネガット節を期待するとやや期待はずれにおわるかも。それでも、この短編集が出版された時点でヴォネガットは「タイム・クエイク」を最後の長編にすると絶筆宣言をしており、かなり手を入れた短編もあるこの最後の短編集はファンにとってはボーナス・トラックとして機能したことでしょう。
 ヴォネガットが捕虜として経験したドレスデン空爆体験は、作品に大きな影響を与えているのでしょうが、初期短編を読み直して改めて「復員文学」としてヴォネガットを再認識しました。日本の復員文学というとすぐに思い出すのは横溝正史です。犬神佐清やら、獄門島の帰らない三狂女の兄の存在が、共同体に動揺を与え、惨劇がくり返されるわけですが、ひたすら共同体の内部にこもる血縁関係の中に内閉していく横溝と、感情を解離させて宇宙へと乾いたユーモアを広げていくヴォネガットの対比がおもしろいですね。
 そこで当然連想されるのはヴォネガット・クローンから進化していった村上春樹ということで、「ねじまき鳥クロニクル」のノモンハン事件、井戸の底の皮剥は、横溝とヴォネガットをつなぐミッシング・リンクだったりして。
 ここらへんとオブライエンとかのベトナム帰還兵文学、これから書かれるであろう(あるいは今書かれつつある)アフガン・イラク帰還兵文学を絡めると文芸評論一冊分かけそうな予感。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%83%E3%83%88


 「エデン特急」を書いた息子さんが統合失調症というのは知っていましたが、母親が自殺していたということは知りませんでした・・・

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