メランコリー ―人生後半期の妄想性障害―/濱田秀伯・古茶大樹 編著

 メランコリーというと「うつ病」の古い呼称、と思っている人が多いかもしれませんが、本書を読むとその現代的な「うつ病」との違いにはびっくりするかもしれません。
 下記はクレペリンがあげているメランコリーの症状例。


 患者の頭の切れはしがのどをすっと通り抜ける。悪魔が脳を取り出してしまった。頭蓋骨の中に排泄物が入っている。血管はカラカラに干されて毒をいっぱいに詰められた。のどが塞がっている。のどの中に石がひっかかっている。手足は膿でいっぱいだ、大量の膿が便通と共に出てきて、咳払いをすれば口から吐き出される。皮膚の下に虫がいて這いまわっている。肩にかけて皮膚があまりに窮屈だ、体はのびたり縮んだりする。胸が鎧で包まれたような感じがする。もう終わりだ、なぜなら、患者は死んでいる、石化した、梅毒にかかっている、内側が腐っている、悪臭を放っている、病院中に感染させるだろう、目もない、呼吸もない、頭もない、魂もない、心臓もない、座ることもできない、一歩も進むこともできない、握手をすることもできない。少なくともその中身は、獣に変えられてしまった、ほえて、荒れ狂い、走り回らなければならない。
 ここで描かれるのはほとんどメラニー・クラインの精神病的な恐ろしい内的対象関係の世界か、サミュエル・ベケットの描く死んだスキゾイドの世界を無理矢理沸騰させたような世界です。
 フロイトの論文「メランコリーと喪」も、こうしたメランコリーの世界を想像してよまないと変なところに足を踏み入れることになりそうです。
メランコリー ―人生後半期の妄想性障害―
メランコリー ―人生後半期の妄想性障害―濱田 秀伯 古茶 大樹

弘文堂 2008-04-18
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