「こころの病理学/新宮 一成 片田 珠美 芝 伸太郎 西口 芳伯」

 詳しい説明は出ていませんでしたが、「京大人気講義シリーズ」と銘打たれているので、講義を書籍化したものなのでしょう。タイトルだけ見て図書館で予約したので、一般向けの本とは思ってませんでした。病理系の先生方と「こころ」という河合先生系のソフトイメージが微妙にミスマッチです。
 新宮先生、片田先生と名を連ねていますが、精神医学の歴史と統合失調症に関する概説で、別にラカンが出てくるわけではありません。でも症例をそのまま載せましたという感じは片田先生らしいですね。
 むしろおもしろかったのは残りの二人の担当部分でした。芝先生は気分障害とパーソナリティ障害が担当で、病理系の先生らしくDSM批判からはいるのはまあわかりますが、症例「徳川家康」とかいう命名法がユニークでおかしいです。いわゆる双極性2型の女性患者さんで他者との病的な同調性が見られる人に、スルピリド(薬剤名ドグマチール等)とバルプロ酸ナトリウム(薬剤名デパケン等)を処方しつつ、「他人と自分の思考、感情を区別する」「どんな小さなことでも自分の行為が人に喜んでもらえたらそれを自分の存在意義と考えるようにする」という指示を行うと軽快するという指摘は興味深かったです。
 西口先生は触法精神障害者少年法に関する分担でした。少年法精神科医の参考意見が過大評価されて、微罪にもかかわらず医療少年院に入院となり病状が悪化したり、家族と絶縁してしまった例、鑑定医とその後の治療に当たる医師が異なるため、診断に問題があった場合にも処置の変更がおこなえないなど現行法の問題点が指摘されていました。医療観察法に関してはおおむね肯定的な評価で、よく批判される触法患者への処遇が高コストになることに対しては、海外諸国並みとのことでした。ここらへんは数字を抑えておく必要があります。心理職全体に関しては、医療観察法など対岸の火事という感じですけど、それはちょっと困りますね。

こころの病理学 (京大人気講義シリーズ)
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