結論既定の単純化「心を遠隔管理する社会―カウンセリング・教育におけるコントロール技法/中島 浩籌」

 タイトルだけ見てちょっとおもしろそうかなと思って借りたら日本社会臨床学会関係者の本だとわかって、ちょっとがっかり。読まなくてもだいたい論旨と結論はわかっちゃうんだよね。現状の問題→こんな事例がある→それを一般化→カウンセリング危険という流れ。筆者たちは問題の内面化を批判するんだけど、クライアントの中にはそれが必要な人もいるんだよね。大学の学生相談でもたとえば教員と学生の対人関係上の問題で、どこまでが学生の内面の問題か、どこまでが教職員のハラスメントで現実的な対応が必要なのかはいつもアセスメントしておかなきゃいけない。ハラスメントを内面化して学生の生にしていたら確かに問題です。だけど、そういう事例は出さずに40年前の文部省のカウンセリング実例みたいなのにのっているロジャーズ派の事例なんか出して批判しているのはやっぱりアンフェアだと思う。
 彼らはほんとにセラピー原理主義者と似ている。多様なクライアントの中から自分に都合の良いひとだけをひっぱってきてすごく乱暴な一般化を行うところがね。
 問題の内面化批判だけやっている頃は彼らもアンチ巨人みたいな感じでやりやすかったのだろうけど、ポストモダンの現代で、過剰な内面化を批判する解決志向アプローチ、コミュニティ心理学なども出てくると、それに併せてセラピー否定主義も改訂しなければならない。そのキーワードがコントロール技法ということなのだけど、正直焦点があいまいで批判としての力は弱いような気がする。

心を遠隔管理する社会―カウンセリング・教育におけるコントロール技法
心を遠隔管理する社会―カウンセリング・教育におけるコントロール技法中島 浩籌

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