ナチス戦犯のロールシャッハ
ナチス戦犯のロールシャッハ・テスト E. Zillmer et al. 1991/11/26
■概要
ニュルンベルク裁判における22人のナチス戦犯の心理測定。
今までの解釈の誤り
1)拡大解釈
2)戦犯たちのパーソナリティの違いに気付かなかったこと
この研究では、エクスナーの統合的スコアリング・システムを用いて
「ナチ・パーソナリティ」のような心理的障害は存在しないことを示した。
■先行研究
G.Gilbert と Douglas Kelly によって、ロールシャッハ・テストが試行される。
□Gilbert 「ニュルンベルク日記」(1947)
「独裁の心理学」(1950)
導びきだされる孝察は、純粋にテストから得られたものだけではない。
あまりテストのことに触れていないし、逐語録もない。
□Kelly (1946)
ロールシャッハの重要性を強調。
ユニークでも気違いじみてもいない。世界のどこにでも現れうる性格。
□Miale & Seltzer(1975) 「ニュルンベルク・マインド;ナチス指導者の心理学」
ナチパーソナリティともいうべき単一の心理的構造を持っていた。
抑欝的、暴力とナルシズムの傾向。
<問題点>
批判が多い。
非験者の過去の経暦などが、解釈に影響を与えすぎている。Ritzler(1978)
意図的に病的に描こうとしている。Rubenstein(1976)
特定の反応内容がないことが、病理的反応になってしまう。
□Harrower(1976)
8人のプロトコルをブラインド・アナリシス。
ロールシャッハテストの専門家も類似した構造を見つけられない。
6人は心理的な不適応は見られない。生産的で、統合された人格がそのような「恐怖」にまきこまれることもある。
<問題点>
ほとんどが内容分析。8人の選択の基準が不明確。
□Ritzler(1978)
最も経験的なアプローチ。量的指標を導入(ベック式)し統性群と比較。
標準からはややはずれるが、Miale らが主張するほどものではない。
病的ではないし、神経症者のプロトコルにも似ていない。
<問題点>
ナチのロールシャッハを1つのグループにしている。これは集団の等質性を仮定している。ロールシャッハ得点は正規分布していないのに、分散分析を用いている。
■目的
エクスナーの統合システム(コンピューターによる診断を含む客観的な標定法で、被告たちに共通のパーソナリティや病理学的な特徴はないことを示す。
■方法
死刑になった8人+ルドルフ・ヘス―リッベントロップ(反応が10以下)の合計8名。
■結果
標定の信頼性・・・63 - 100 %(平均 92 %)
通常は 90-98 %
プロトコルの妥当性、現実吟味、ストレス耐性及び統制、情動過程をコンピューターで標定。
■考察
<評価の妥当性>
11≦R≦49 .00≦Lambda≦1.33
8つのプロトコルとも joint criteria を満たす。(10≦R or 1.2≧Lambda)
(反応数が少なく、かつ純粋F反応の割合いが多いということはない)
質問段階がエクスナーの方式からみると不適切である。
エクスナーの標準化は現代のアメリカを基準にしている。
得点化は英語に翻訳されたものから行なった。
<現実吟味能力>
4人の被験者に認知的な歪み。
ローゼンバーク SCZI=2 X+% = .64 X-% = .09
知覚の正確さ、現実吟味は妥当
ヘス SCZI=5 X+% = .54 X-% = .31
Weighted Special Score Value = 26
「分裂病の可能性」「知覚の正確さにおける顕著な障害」
拘留中もパラノイアックな妄想。
終身刑になったのもそれを考慮された。
mean SCZI =3.37 (5点満点)バラつきが大きいのであまり意味はない。
<ストレス耐性と衝動統制>
明白で慢性的な衝動統制の問題・・・2人
通常の衝動統制能力・・・・・・・・4人
並はずれた衝動統制能力・・・・・・2人
フランク D=-9 S=7 m=13 体験型=両向型
衝動的行動を行ないやすい。
mの多さ。「無力感とストレスに対応できないことか
ら生じる感情的な不快感」 野蛮な行動。自殺未遂。ローマカソリックに改宗。
罪悪感を裁判で認めたうちのひとり
カイテル D=-2 ストレス耐性、衝動統制が低い。
カルテンブルーナー D & adjusted D = +2
「並はずれた衝動統制能力」無罪を確信。
<情動的な刺激>
体験型・・・外向から両向(4人)まで。内向はいない。
両向型の多さ。他人のスタイルにあわせ、ぐらつく傾向。
両向型が多い集団は、そうでない集団の中の両向型よりも性格的な問題が多い。
ヘス 外向。CF=4 「通常の成人ほど感情の表出を抑制しない。
<抑欝指標>
該当者なし。一番高かったのはカイテルとフランク。
<自殺指標>
ヘスとカイテルに警告。ヘスは実際に拘置中に自殺未遂、最終的に1987年に自殺。カイテルは裁判中も抑欝的、罪悪感を認める。
処刑の数時間前に自殺したゲーリングの得点は4点。
<Afr>
ゲーリング・・・感情的な刺激に非常にひかれる。
ローゼンバーク・・・感情的な刺激を避ける。
<Ego>
通常の範囲のものは1名だけ。
Ego =< 0.30 ・・・4人。
Ego => 0.45 ・・・3人。ゲーリング。ただひとり挑発的な態度で
<スペシャル・スコア>
7人は2つ以上のMor。(成人の平均は0)
「まわりを見るとき、脅威や敵意を強調しやすい。
■結論
1)被告の半数に重要な現実吟味力の欠陥と思考障害の可能性。特にヘス。
残りの半数の現実吟味には問題はない。
2)感情刺激に反応するのは困難にみえるかもしれないが、慢性的な衝動統制の問題を持っているのは2人だけである。
3)この集団には驚くほど、抑欝の徴候が見られないが、8人中7人が自己像の障害、自己中心的過大評価などの問題を持つ。
4)それぞれのプロトコルが、個々の特徴を持ち、反応に幅がある。
プロトコルの同質性よりも異質性のほうが大きい。
エクスナーの標定尺度
Afr Affective Ratio Sum 8 -10/ Sum 1-7
D |EA−ep|≦ 2.5 ならば 0
ストレス耐性と衝動統制
EB 体験型 (M:ΣC)
EA Experience Active (M+ΣC)
eb Experience Base (Sum FM + m :Sum C' + T + Y + V)
ep(es) (Sum FM + m + C' + T + Y + V)
Ego Egocentricity Index 3r + (2) /R
Lambda Sum F /sum R - F
X+% Conventional Form (Sum FQ + & o)/R
X−% Distorted Form (Sum FQ -)/R
Zd Organization activity Zsum−Zest