厚生労働省が実施を予定している「全国障害児・者実態調査(仮称)」への反対運動を理解していくために、中止となった1973年、1983年の実態調査について知りたいと思って読みました。分裂前の日本臨床心理学会の関係者も執筆しています。
個人情報保護法も施行される前であり、保安処分に関連した不安をかきたてたことも間違いなく、個人が特定可能な情報が記録に残される、記入するのが調査員、などさまざまな問題があった調査だと言うことがわかりました。
一方で、調査反対の理由についてはやはりすべて反対ありきの論説中心で、調査に関する肯定的な側面と否定的な側面をフェアーに書いているという印象は受けませんでした。運動としてはどうしても自分たちの都合の良い部分だけを強調することになってしまうのが残念です。
例えば今回の反対でも過去の調査で「自殺者が出ている歴史」という記載がありますが、中止となった調査でどうして自殺者が出ているのか疑問に思いました。この本にはそのことに関する情報も書いてあり、「警察の尾行・戸別訪問・電話盗聴」を受け、反対運動関係者にどんな調査かを尋ね不安を訴えていた精神科ユーザーの方が自殺したことが書かれていました。自殺の責任の所在を問うのは空しいのですが、運動の方向性に疑問を問いかけることなく、一方的に相手の責任を断罪する姿勢には疑問を感じるのが正直なところです。
ソーシャル・セキュリティー・ナンバーなどに反対する姿勢はひとつの意見としてあるしメリットもあると思うのですが、たとえば「消えた年金」問題によって生じた損失はこのような合理化への反対の結果でもあるし、「非実在高齢者」のような問題も同様だと思います。
個人的には国勢調査と同様に嫌な人には拒否する権利を明示した上で、行うというあたりが妥協点かとも思います。
調査と人権 | |
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