「頭の問題 精神医学におけるライフスタイル論の新展開/佐野史生」

 著者から謹呈いただきました。本当は春休みに書評を書く予定でしたが、大震災の対応に追われて夏休みにずれ込んでしまいました。
 著者はADHDてんかんの診断を受けている当事者の方で、大学卒業後に就職するも長く続かず、転職を繰り返し、社会的不適応感と抑うつ状態に陥り、休職期間中に自らの発達障害に向き合うために執筆したのがこの本ということです。
 発達障害精神障害に関して非常に多くの資料にあたっており、私もすべてを理解できているわけではありませんが、発達障害をワーキングメモリの少なさによる情報処理の滞りと捉え、そのような特性を持った人間がどのようなライフスタイルを持つことでより生きやすくなることができるかというのが筆者の課題のようです。
 最終的に筆者が到達する結論はカフェインなどの刺激を避る、車の使用を控える、資本主義体制を批判するなどエコロジカルな立場のようです。従来、このような方向性はマルクス主義的な文脈で語られることはあったと思いますが、自らの脳の特徴という点からこのような地点に辿り着いたというところがユニークだと思います。
 とはいえ、現在の社会体制をそう簡単に変えられるわけでもありませんから、その体制の中でできることは何なのか、ということが、苦難のすえに著者がたどりついた次の難題のようにも思えます。

頭の問題 精神医学におけるライフスタイル論の新展開
頭の問題 精神医学におけるライフスタイル論の新展開佐野 史生

ブイツーソリューション 2010-12-20
売り上げランキング : 676517

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
最新脳科学で読み解く 脳のしくみ
【増補改訂版】心の傷を癒すということ――大災害精神医療の臨床報告
無限振子 精神科医となった自閉症者の声無き叫び
進化しすぎた脳 (ブルーバックス)
ラカン派精神分析の治療論―理論と実践の交点