スコットランド、エディンバラ出身の精神科医。メラニー・クラインの強い影響を受けながら、イギリス精神分析協会とは距離をとり独創的な対象関係理論を構築した。日本での表記は「フェアバーン」、「フェアベーン」が通例だが、Fairbairn の中のふたつの"air"が同様に発音されることを考えると「フェアベアン」が適切と思われる。
フロイト | フェアベアン | |
基本原理 | 快・不快原則 | 対象関係希求 |
人格構造の最古の要素 | エス | 自我 |
エネルギー | リビドー | 自我は構造でありエネルギー体 |
発達 | エスから自我の分化 | 母親からの依存の成熟化 |
人格構造の形成 | エスから自我が分化。オイディプス期に父親に同一化することで超自我が内在化。 | 取りいれられた悪い対象(刺激的対象、拒絶的対象)がリビドーで結びついている自我と一緒に分裂する。 |
発達段階 | 口愛期、肛門期、オイディプス期、潜在期、性器期 | 基本的に口愛期。口愛的取りいれによって内在化された「悪い対象」に対して、強迫的、ヒステリー的、パラノイア的、恐怖症的なテクニックが存在する。 |
抑圧 | 衝動を抑圧 | 内在化された関係性を抑圧 |
その理論の特徴は、
1) 衝動論の否定・対象関係の重視
フロイトは性愛のエネルギーを快/不快原則に基づいたリビドーと考え、自らの身体部位や対象に備給されうると考えたが、フェアベアンにおいてはリビドーはつねに対象関係を求めるものである。そして対象との関係が内在化されることで内的心理構造が構築されると考えた。
フェアベアンにおける発達段階は母親への依存状態をより洗練させていく過程となる。
「リビドーは自我より生じ、対象希求的である」。
2)衝動論の否定
フェアベアンにおいては本能衝動的なイドの存在は否定されている。
「自我」は「自己」と読み替えた方がわかりやすいかもしれない。
3)「悪い対象」の内在化による自我の分裂を強調
乳児と母親との関係は、母親がもたらす欲求不満により「悪い」ものでありうるが、乳児はリビドーの対象関係希求性に従って、悪い対象に対してもリビドー欲求を覚え、この「悪い対象」を内在化する。自我が分裂しスキゾイド状態が形成されることを通じて、心の構造が構成されると考えた。
4)口愛期の強調
フロイトの性発達理論を否定した。分裂、抑鬱にまつわる問題は口愛期に還元され、フロイトが肛門期、エディプス期の問題であると考えた、恐怖症、妄想症,強迫症,ヒステリーは,口愛的体内化によって取り入れられた悪い対象によって引き起こされる分裂から生じる空虚感、抑鬱を防衛するためのテクニックであると考えた。
他者イメージが内在化されて、自我が分裂し独立したまとまりを持つという考えは、多重人格やユングのアニマ、アニムスといった原型を連想させる。症例などを読むと、フェアバーン自身がかなりのスキゾイド?
またガントリップ、サザーランドの訓練分析を行ったことでも知られている。