Mahler, Margarett

Margaret Scheonberger Mahler
Life History

西暦 年齢  
1897 0 5月10日 ハンガリーの Sopron にてユダヤハンガリー人医師の二人きょうだいの長女として生まれる。4歳年下の妹 Suzanne。旧姓 Scheonberger。
1913 16 ブダペシュトのギムナジウムに通う。バリントの最初の妻アリス、妹のエミーと同級生。フェレンツィバリントとの親交始まる。
1916 19 ブダペシュト大学で美術史を専攻。彫刻を学ぶ。
1917 20 医学部入学。
1920 23 ミュンヘン大学、イエナ大学で小児科医としての訓練を受ける。ユダヤ人として迫害を受ける。
1921 24 ハイデルベルク大学で学ぶ。
1922 25 小児科医から精神科医への転向を考え始める。
1923 26 医師資格取得。
1926 29 ヘレーネ・ドイチュから教育分析を受け始めるが、キャンセルがたえず、ドイチュはマーラーを分析不可能と診断する。
1933 36 精神分析家資格取得。アウグスト・アイヒホルンより教育分析を、Robert Waelder Grete Bibring よりスーパービジョンを受ける。フェレンツィの死去によってショックを受ける。
1936 39 アナ・フロイトセミナーで知り合った化学者のポール・マーラー Paul Mahler と結婚する。
1938 41 ニューヨークに移住。母親がアウシュビッツで死んだのを知った時、イーディス・ジェイコブソンの分析を受ける。
1944 47 父親が死亡。母親もアウシュビッツで死亡。イーディス・ジェイコブソンの分析を受ける。
1948 51 小児精神病の研究を始める。
1959 62 乳幼児研究。(-1963)
1975 78 「乳幼児の心理的誕生」
1985 88 死去。

Theory

分離個体化理論

 小児精神病患者の治療から。
 22人の母親の38人の乳幼児を週1、2回、10年に渡ってビデオ撮影し、縦断的に観察する。


月 齢 発達段階   病態水準
0-2 正常な自閉期
The Normal Autistic phase 乳児は覚醒しているより睡眠時間の方が長く、外界からの刺激に無関心。
「外的現実から隔離された閉鎖系として機能」(Greenberg & Mitchell, 1983)
 
3-4 正常な共生期
The Normal Symbiotic phase 外的な刺激に反応。母親の存在にかすかに気づくが、自己との区別はつかない。
体験の組織化が始まり、快感を表す「よいもの」と苦痛をあらわす「悪いもの」が区別されるようになる。 分裂病
融合した自己対象表象
5-24

分離個体化期






1)分化期(5-10ヶ月)
 「孵化」の時期。外界に持続的に注意を向け、能動的に自分の体を動かそうとする。初期には母親の体を、後期には母子球の外界を探索し始める。
 自己と対象の感覚的区別が可能になる。
 「人見知り」の出現。

2)練習期(10ヶ月-生後2年目の半ば)
はいはいやよじのぼることが可能になる。関心の対象は母親からものへ。「移行対象」
母親はまだひとりの人間ではなく、「情緒的補給」のホームベースとみなされている。
心理的誕生」の発生期。自己愛と対象愛の絶頂の時期。万能的な自己愛。「世界との情事」

3)再接近期(生後2年目の半ば-)
自分の小ささを認識する。理想的な自己感覚の喪失と分離不安の再現。
欲求不満が頻繁に体験される。
自己表象と対象表象の分化。 現実検討能力
自我境界
自我防衛
自我機能

自己愛人格障害
分離不安

境界例
(見捨てられ抑鬱
24-36 情緒的対象恒常性の時期 自己及び他者の概念が確固としたものとなる。自己の個別性の感覚が獲得され、こころのなかに肯定的な感情をこめられた他者イメージを保持できるようになる。他者が不在でも十分機能でき、分離が可能となる。 神経症 エディプス葛藤
人格障害

■自閉期 autism (0〜2ヶ月)

 対象関係は出生直後から存在する→ Fairbairn Klein Issacs
 対象関係は生後しばらくしてから発生する→ Mahler

心理的な閉鎖システム」「ここちよく夢みながら眠っているような状態」。
 「対象のない段階」 (Spitz)

 自己と対象を分化していくには神経が十分発達していないし、経験も不足している。まだ反射(握る、手探りするなど)しかない時期。


 ハミルトンの批判
 乳児はこの時期はまだ一貫した思考を持っていない。母との一体感は共生期に生じる。

 フロイトナルシシズム入門」 (1914)
 1才以下の幼児は「1次ナルシシズム(自体愛)」
  リビドーが外的な対象にも内的な自己表象、対象表象にも向かわず自分の体に備給されている。

 自己心理学的視点からの批判
 確かにリビドーは内に向いているだろうが、実態としての自己を経験していないのにどうやってリビドー備給が可能なのか?
 語義が曖昧なのが問題。


「有能な幼児」
 色、動き、音、味、におい、触覚に反応。
 ただし人間からの刺激とそうでない刺激の区別はつかないし、ものと自分の体に同じように反応する。

 「各段階は重なり合う」 (マーラー) のでこの時期にも、外界の刺激に反応するということがこれに続く段階への連続性となる。

 大人はこの時期の幼児を外界から孤立した存在として見にくい。なぜなら大人の乳児にたいする愛着があまりに強いからである。(Klaus et al. 1972)

■共生期 symbiosis (2-6ヶ月)


乳児は「欲求を満たしてくれる対象」をぼんやりと知覚し始める。(Mahler)
 乳児は自分と母親が「ひとつの共通の境界を持ち、二重のまとまりを持つ万能のシステム」の部分であると感じる。フロイトはこれを「大洋感情」と呼んだ。

 神経系(記憶・認知・運動)が発達し、経験を記憶し組織できるようになることが二者関係のきざしとなる。

 母親が赤ちゃんの出すサインに答える事で、自我機能(知覚・加工・記憶・刺激への反応)が高まっていく。母親の反応性が悪いと自我機能がうまく発達しない。
 施設育ちの子どもは母親との相互交流に欠けるため自閉期に退行しやすい。(Spitz 1965)

 微笑み反応 (Spitz 1946) 社会的微笑み。人の顔のパターンに反応して微笑む。
 母親のだっこは「心理的な誕生を共生的に組織する」(Mahler 1975)

「ほどよいマザリング」(ウィニコット 1953)
「だっこの環境 holding environment」(ウィニコット 1960)

「相互にサインを出すこと mutual cuing 」(ブラゼルトン 1969)

 母親のあたたかさに反応 (マーラー 1971)
母親のだっこのパターンに反応

離乳時にむずかるこどもをなだめようとして、ひざの上で跳ねさせる。
落ち着くようになり、いないないばあを同じ跳ねる格好をして行う。 (Mahler 1975)

共生期の不快な体験は自他が未分化なため、自己と世界をすべて含みこむ。
発達にも貢献する。よい経験と悪い経験の分化が自己イメージと対象イメージの萌芽となる。

乳児は何かそとにあるものが自分をだっこしたり、食べ物を与えたりしていることに気付くようになるが、自他が未分化なため自分で自分をだっこしたり、食べ物を与えたりしている気になっている。(太古的万能感)
自分が探すと魔法のように母親が現れると感じている。(魔術的な思考)
共生期的な母親がそこにいれば欲求と充足は一つのものであるかのように満たされる。

共生期の幼児の両親は喜びに満ちているが、同時に24時間求められるために疲れはててしまう。両親が子供から距離をとり、厳格な睡眠と授乳を押し付けてしまうこともある。
母親は反応してくれる赤ん坊を見て、親としての役割を見出すが、父親は締め出される。中には母親をサポートする事で共生に参加する父親もいる。
さらに積極的に赤ん坊をケアする父親の場合は赤ん坊は両親を一体として感じる。

■分離個体化期 6-24ヶ月

「母親に近づいたり離れたりいったりきたりのダンス」

・サブフェーズ1 分化期 6-10ヶ月

 機敏さ・しつこさ・目的志向性のあらわれ
 自己−対象(=母親)からの分化
 抱かれれている時にそりかえって母親を見ようとする。
 母親の体の探索。
 母親にとっては共生期の一体感の喪失。
 赤ちゃんが侵入的な母親に嫌気がさしてしまうこともある。

 移行対象 transitional object (Winnicott 1953)
 自己と母親の表象。しかし乳児は自己や母親そのものではないことがわかっている。
 共生期の万能感のなごり。

 人見知り stranger anxiety or stranger reaction
  母親と他の人々を比較。母親との分化の始まり。
  共生期の愛着から自己−対象都市手の働きも残っている母親にしがみつき、そのきずなを脅かす他者を排除する。

  運動能力の発達、運動の供応という自我機能は自己−対象の分化に役立ち、母親の手から離れることが可能になるが、まだ母親のそばを離れることはない。

 real person の芽生え。

・サブフェーズ2 練習期 10-16ヶ月

 反復を楽しむ。「世界との情事」(Greenacre)
 「移行対象」
 母を情緒的な再補給所(ホームベース)にして、母を気にし振り返りながらも探索に出かける。(dashing away)

 歩行が可能になる。自己愛のピーク。危険な行為。

 ほどよい母親であることの難しさ。母にとっても分離の時期。どうしても母のニードが優先になる。
 情緒的なつながりを持ちながら、やさしく押し出すこと。

・サブフェーズ3 再接近期 16-24ヶ月

 傷つきやすさと母への依存への気付き。
 後追い(shadowing)とはねのけ(warding-off)が同時に起こる。ノウといい始める。

 依存−独立 親しさ−距離 などの葛藤状況。

 魔術的な万能感の喪失。母の情緒に影響され、母に怒りの発作が向く。

 分割 (splitting) all-good or all-bad

 移行対象への愛着。分離時の儀式。

 練習期 ;有頂天・多動
 再接近期;不安定・悲しみ・失望・共感

 言葉の発達 「私」「赤ちゃん」

 自己 − 情動 − 対象 (Object)
 I   Love  Mother
 I want  Toast

 人形遊び・いないないばあ 共生期の融合にもどりたいというファンタジー
 内的対象表象の投影 移行対象のようなもの
 境界を崩すことなく外在化できる。

 ルールの内在化。
 性差への気付き。
 男・・より距離があり活動的
 女・・母への結び付きが強い。ぺニス羨望。アンビバレンス。

 ぺニス羨望への反論
  母との違い・・男の子はより分離しなければならない。

 子供のアンビバレント・操作的な態度で母親はフラストレーションがたまる。
 分離を拒否せずはげます。侵入的にならずに制限する。

 母親の分離不安。母親が分離を阻止。(Masterson & Rinsley)
 父親の役割・・中立な第3者。2者関係が3者関係に変化。

■情緒的対象恒常性の獲得 24-36ヶ月

 確固とした対象イメージ(特に母親イメージ)が獲得され、母親が不在でもほかのことに熱中できる。
 再接近期のしがみつき・拒絶・要求・依存が消失。

 認知的な対象永続性(Piajet 1937)。視界から消えたもののイメージの保持。
 情緒的な対象恒常性より以前に確立される。

 (情緒的)対象恒常性は感情(怒り・おびえ)の影響を受ける

 両親とのよい関係があれば Object Permanence より前に Person Permanence が発達する。(Bell 1970)

 対象喪失
 Object Permanence
 同一人物にたいする快−不快の感情を組み合わせること。(アンビバレンスの統合) これができないと母への怒りやこいしたう気持が生じる。

 個性 individuality と変わらない対象イメージは相伴う。
 自己イメージの確立。
 更に目的のはっきりした行為ができる。多少のフラストレーションがあっても作業が可能。

 時間の感覚。喜びを遅らせることが可能。
 フラストレーション場面でもよいことを覚えていられる。

 「おばさん (cohesive individual) と明日 (continuity) 会う」

 この時期の努力は継続
  自分の力以上のことをしたがる。かんしゃく、反抗癖。
  トイレット・トレーニン

 両親の意味の低下
 喪失感なく幼稚園に行くようになる。父が重要人物に。

 対象恒常性と個性
 他の個人との関係において自分は誰なのか?(自我同一性)

 エディプス葛藤
 潜在期、青年期、家族からの自立の際に再燃。

 分離と同一性の問題
  結婚、子供を持つ時、子供の発達、転職などの際に再燃。