「1人の生殖器に異常のある患者の分析に見られたいくつかの特徴」(1931)

 45才の未婚の女性。背が高く男性的。きまじめな性格。
 思春期までは陽気で、屈託のない子どもだったが、思春期以降エネルギ−を教師になるための勉強に向ける。代償性のメンスと見られる大腸からの出血あり。
 20才の時の検査で、どこにも通じていない針の頭ほどの膣口を除いて、生殖器が欠けていることがわかる。姉妹の複数のものに彼女と同様の生殖器の異常が見られた。
 女性であることの重荷から解放され、むしろほっとする。セックス、結婚の問題を否認。
 教師となってマゾヒスティックな完全主義的傾向、緊張が高まる。生徒の反抗に耐えられない。
 25才の時ある病気にかかって1年以上職場を離れ、復帰した時に身体症状やヒステリー症状が現われる。(不眠。生徒への異常なまでの敵意。教室での意識がもうろうとする。言葉が出て来ない。)学校の義務から解放されると魔法のように症状が消失し、軽躁状態になる。転勤を繰り返しながらも、40才までは教師を続ける。(短期間の抑鬱状態「生理不順」)
 41才でフェアベアンのもとを訪れる。

□家族
父親・・家族の中ではあまりめだたない。
母親・・家族の幸せを大事にする精力的な女性。Ptに厳格な超自我形成を誘発した。
母方の祖父・・父親がわり。治療開始の数年前に死去。

□経過
第1期 <性器的レベルのリビドーの解放><躁の時期>
 分析開始から3ケ月間。
エディプス状況の表面化。Pt−祖父−母の思い出の想起。
「幼児的自己」の再発見。
性的感覚の現われ。幼児期のブランコ・シーソー体験。(クリトリス感覚)
分析への行き帰りの電車での「アバンチュール」。自分が男性の気をひく。
幼児的万能感。「他人ばかりか動物まで優しく愛する能力が授けられた」
メシア的誇大妄想。
「自分には新しいパワーを自在に使いこなす力があり、全人類の福祉に役立てうる」

第2期 <口愛サディズムの解放>
・肛門期的テーマの夢。(洗面所、曲がりくねった道。)<鬱の時期>
・ペニス羨望の夢。(肛門部分にタバコがぶらさがっている。)
 ペニスに対する口唇サディズム(クリームソースのかかった山椒魚
 ペニスにけが(かみ傷)をし、おびえた弟が裸のまま部屋に入ってくる夢。
 弟の事故死。冷静に対処するPt。高揚期。
・「アバンチュール」で男性にに対する態度がだんだん冷淡なものに変化。
 感情をかきたてておいて、急に知らん顔をする。(サディスティックな復讐)
 電車以外でも父親的人物に与える「影響」を意識し、普通の状況までが「アバンチュール」の意味を持つ。
 サディズム傾向に与える無意識的罪悪感のために一過性の抑鬱状態になるが、そのことを洞察すると、瞬時に抑鬱が晴れる。
 cf.国王の死

第3期 <無意識的罪悪感・超自我要素の表面化><妄想症の段階>
「アバンチュール」に恥ずかしさを感じる。
男性を見るだけで恥ずかしくなる。(口唇サディズムに対する罪悪感)
関係念慮。自分の感情に相手が「影響」される。(投影)
同居しはじめた姪に対する超自我的でサディスティックな怒り。
自分のサディズム傾向には寛容になる。
子どもたち=Ptの中の抑圧された傾向。
 【投影】 迫害の夢。ある貴族からもみの木(=ペニス)を盗み裁判にかけられる。
 罪悪感に対する防衛として妄想的観念に訴えていたことを認めざるを得なかった。
 妄想を認めることには抵抗が大きい。男性に対する困惑は消失。

★万能感 1)幼児期的な制約も束縛も知らないリビドー的万能感。<躁病。分裂病。>
 2)超自我も満足させることのできる昇華された活動分野の中で得られる万能感。<強迫神経症・妄想症>

★ころろのさまざまな側面を象徴的人物として表現。
  「いたずら坊頭」
 思春期直前の屈託のない少年。トリックスター的存在。
 Ptの見るところによれば「子どもっぽい自分」
「批評家」
 基本的に母親的権威を持った中年女性。男性となる時は権威ある父親像。
 厳格で恐ろしい。
「小さな少女」
 5才くらいの少女。天真爛漫だが、いたずらで人をイライラさせない。

フロイトのイド・自我・超自我に対応しているが、フロイト理論はそれを実体的に扱いすぎた。もっと機能的なものとみなすべきだ。
 多重人格との共通性。第1期にPtは「いたずら坊頭」に支配されていた。


Reference