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『スキナー箱をあけて』という文学的な原題の方が中身にふさわしい。『心は実験できるか』では科学読み物みたいで、何となくそういうものをイメージしていた。もちろん心理学史上でも有名な10の実験を取り上げてはいるのだけれど、関係者へのインタビューと文学的な再構成でまとめた文学的ルポルタージュと思って読んだ方がよい。
1 スキナー箱を開けて―スキナーのオペラント条件づけ実験
2 権威への服従―ミルグラムの電気ショック実験
3 患者のふりして病院へ―ローゼンハンの精神医学診断実験
4 冷淡な傍観者―ダーリーとラタネの緊急事態介入実験
5 理由を求める心―フェスティンガーの認知的不協和実験
6 針金の母親を愛せるか―ハーローのサルの愛情実験
7 ネズミの楽園―アレグザンダーの依存症実験
8 思い出された嘘―ロフタスの偽記憶実験
9 記憶を保持する脳神経―カンデルの神経強化実験
10 脳にメスを入れる―モニスの実験的ロボトミー
著者はサイコロジスト兼ノンフィクションライター。思春期には数度の精神科病院への入院歴もあるという。
ハーロウのワイアー・マザーを巡る陰惨な話には心が痛む。
クロス・マザーに育てられたけれど、育たなかった猿たち。その猿たちを母親にするために、ハーローが組み立てたレイプラック。そして予想どおりに子殺しをした母猿たち。
うつ病で電気ショックも経験していたハーロウ。猿の実験の前に研究していた高IQ児のひとりと結婚するハーロウ。不倫そして離婚。再婚、不倫、死別、そして前妻との再婚。
第5章ローゼンハンの精神医学診断実験 日本でも「ルポ・精神病棟」というのがあったけれど、向こうでも同様の試みがあったらしい。"Making Us Crazy" でも活躍の精神科医スピッツアーがここでも登場。
第8章では「抑圧された記憶の神話」では悪玉だったジュディス・ハーマンとエリザベス・ロフタスの立場が逆転して、ロフタスのエキセントリックな姿が描かれている。ロフタスは連続殺人で有名なテッド・バンディの弁護にも関わっているそうだ。
第10章の現在行われているロボトミー手術のルポも心を揺さぶる。ロボトミーというと統合失調症の患者さんへの非人道的な不可逆の手術というイメージがまず浮かぶが、現在の脳への関心が行き着く先はここなのかもしれない。脳への直接的な働きかけのもたらす驚くべき効果と、致命的な破壊と、アンビバレンツというには強烈すぎるこの手段を私達は使いこなすことができるのだろうか。
http://taxa.epi.umn.edu/slater/
- p.105 トーマス・スザッツ → トーマス・サース Szasz ハンガリー系なので sz の発音はs。
- p.129 コトニー・ラブは結婚当時は女優というよりミュージシャンじゃないかな。
- p.245 最初の向精神薬リタリン → クロルプロマジン?
心は実験できるか―20世紀心理学実験物語 | |
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ロフタスといえば、大学の学部の学習心理学のテキストがブレイク前のロフタスでした。このテキストは夫婦で書いていますが、その後ふたりは離婚してしまったようです。
人間の記憶―認知心理学入門 | |
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