アーサーはなぜ自殺したのか/エドウィン・S. シュナイドマン Edwin S. Shneidman 高橋 祥友 訳

 これはなかなか凄い本です。少年時代から自殺企図を繰り返し、医師かつ弁護士となったものの33歳で自殺したアーサーの母親、父親、兄、妹、親友、前妻、元恋人、心理療法家、精神科医に「心理学的剖検」概念で有名な自殺学の権威であるシュナイドマン博士がインタビューを行い、さらにアーサーが残した遺書、8人の自殺学の専門家による見解を合わせたもの。うつ病でも全体的に気力が衰え行動自体に困難が生じるわけではなく、アーサーのように職業もそれなりにこなしていたけれど、繰り返す希死念慮に捕らわれた人々にどう関わるかということには考えさせられました。
 専門家の意見もいろいろで、チームによるサポートが必要だというひともいれば、分業はよくないという分析家もいます。アスペルガー障害を指摘する人もいれば、認知行動療法の有効性を指摘する人もいます。シルビア・プラスのように電気ショック療法を試してみるべきだったという専門家は結構多く、精神外科手術(昔のロボトミー)を薦めていた精神科医も一人いました。ようは自殺という問題に対して専門家のあいだにさえ共通の「正しい」対策は確立されていないと言うことなのです。
 86歳でこの本を出版したシュナイドマン博士の情熱にも頭が下がります。最後に掲載されているアーサーの母親に対して書かれたシュナイドマン博士の手紙にはぐっとくるものがありました。


 たとえフリーダ・フロム・ライヒマンやマルガリータ・セチャヘイエといった難治患者の治療に秀でた伝説の心理療法家が協力して治療にあたったとしても、アーサーを救うことができたかどうか私には定かでありません。しかし、私が治療に当たっている間は少なくとも彼は死ぬことはなかっただろうという考えを、たとえ妄想に近いものであったとしても、持ちたいと思います。私が治療を引き受けたいかなる患者、私と協力して治療を受けようと決めたいかなる患者も救うことができると私は信じています。
アーサーはなぜ自殺したのか
アーサーはなぜ自殺したのかエドウィン・S. シュナイドマン Edwin S. Shneidman 高橋 祥友

誠信書房 2005-05
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