臨床心理学における科学と疑似科学/リリエンフェルド

 装丁からして「ロールシャッハテストはまちがっている」の続編的扱い。新味はないけどおもしろいところはあると思う。臨床心理学が疑似科学以外の何?心理療法プラセボ以外の何?とは思っちゃうけど。
 まあこういう本の常として、統合失調症そのもの実体なんかは不問に付しておくという保守的なところはある。そもそもこういう本をおもしろいと思う主体の感覚を実証するエビデンスは存在しないし。
 ハーブ療法にエビデンスがないなら、漢方もダメだよね。実際、デーケンの『フロイトのウソ』は鍼灸だの東洋医療批判があったしね。そいでつきつめていけば宗教だの哲学だのみんな絶滅で、やっぱりいきつく先はニヒリズム


 まあ元資料にもあたらずこの本が素晴らしい、と思っちゃう構造自体が疑似科学。掲載されている論文が存在しているかどうかもまだ実証されていないのだから。最終章あたりで、この本自体がもつ教化・洗脳・疑似科学的傾向が指摘してあったら断然かっこいいのだが。

 
 しかし、翻訳には問題点多数で下訳レベル。意味を考えずにただ英語に置きかえているところが多く、全体に読みにくい。さらに既訳語、固有名詞表記をほとんど気にしてないのも困りもの。例えば family therapy が「家庭療法」。ざっと日本語を見て目についたものだけを下に挙げたが、きちんと挙げていくときりがないので、改訳した方が早いでしょう。

  • iv ソシアルワーカー → ソーシャルワーカー 第1章はちゃんと「ソーシャル・ワーカー」になっている。よっぽど不注意か、自分の分担分を孫請けで誰かに翻訳させたのか。
  • vii エッセイ → 論文
  • p.1 思考の出発点、展開、改善策 Initial thoughts, Reflections, Considerations 「思考の出発」はともかく、reflections , considerations に「展開」、「改善策」という意味はない。
  • p.7 フェイマン → ファインマン 「ご冗談でしょう、ファインマンさん」しらんかな。
  • p.8 パーソンX → Xさん
  • p.37 解剖腑分け人形 anatomically detailed doll → 解剖学的に正しい人形 そんなものがあったら怖ろしいけど、奥歯ちゃんは喜んじゃうでしょう。単に性器がきちんとついてる人形を婉曲に言ったもの。性虐待のポスト・トラウマティック・プレイに使われたりするけど、そういう使い方には賛否両論あるようです。このページの「解剖腑分け人形」は索引から洩れてます。インターネット以前ならいくら調べてもわからないということはあっただろうけど、いまは Google イメージ で検索すればいいだけ。調べないのはただの怠慢。http://www.amamantafamily.com/
  • p.39 表記揺れ エクスナー/エックスナー 重要人物の表記が揺れてはまずい。
  • p.51 ADDで性的な触診 sexual exploration を行ってしまった → ADDで性の世界を探索してしまった お医者さんごっこをしたということでしょうか。
  • p.74 「人々 対 マクドナルド People v. Mcdonald」 → 「検察 対 マクドナルド」
  • p.149 邪悪なものの実在または何らかの実在療法 Evil entities or entities therapy → (呪縛)霊療法
  • p.189 ローマの皇帝ジュリアス・シーザー これは原文が違うのでしょうが、アメリカ人はきっとみなユリウス・カエサルが皇帝だと思っているに違いありません。まあ実質的には皇帝といってもよいでしょうが、実際は実際の役職名は独裁官。 
  • p.205 成人の特定の障害 → 成人に特有の障害 第Ⅲ部のタイトルだけど、第Ⅳ部のタイトルの訳は「特定の子どもの障害」で不統一、かつ意味を考えていない。

臨床心理学における科学と疑似科学
臨床心理学における科学と疑似科学S.O.リリエンフェルド

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