マリリン・モンローと彼女を担当した最後の精神分析家ラルフ・グリーンスンの関係を扱ったドキュメンタリ風「小説」。著者自身はフランス人で分析家。精神分析史という点からも興味深い。
ラルフ・グリーンスンは精神分析のテキストを書くくらいの権威的人物であったが、マリリン・モンローに対してはほとんど晩年のフェレンツィを連想させるかのようなアプローチをとった。すなわち、外傷を体験し傷ついた症例に対して、可能な限り多くのセッションを提供し患者の親代わりとなるというやり方を。実際、グリーンスンはマリリンに対して自宅を訪問したり、自分の家に招いたりしてセラピーを行い、自分の娘や息子にも紹介している。それにも関わらずマリリンはオーバードーズで亡くなり、グリーンスンに対してはその治療的なアプローチに対する非難から、果てはマリリン殺人の犯人説までさまざまな非難が集中する。
類書の『なぜノーマ・ジーンはマリリン・モンローを殺したか』ではラルフ・グリーンスンはモンローを担当した2人目のセラピストということになっているけど、この本では4人目、しかもイギリスに滞在した際に短期間ではあるけれどアナ・フロイトとの間で遊戯療法を行ったと書いてある!本当?
順番に書くと、マーガレット・ホーエンバーグ、アナ・フロイト、マリアンネ・クリス、そしてラルフ・グリーンスン。
グリーンスンはまた重症のうつ病にかかっていたビビアン・リーの分析家でもあり、またマリリンの愛人だったフランク・シナトラの分析家でもあった。ここらへんのハリウッドと精神分析の関係をもう少し広く扱った本があったら読みたいな。
グリーンスンはモンローの死後、フロイトの主治医でモルヒネ注射によって安楽死させたマックス・シュールの分析を受けている。
ルドルフ・レーベンシュタインはマリリンの元夫のアーサー・ミラーを分析。マリー・ボナパルト、ジャック・ラカンの訓練分析家でもあった。
マリアンネ・クリスがアメリカに亡命できたのはJFKの父親ジョゼフ・ケネディの恩恵が大きく、マリアンネはモンロー亡き後、モンローの愛人であったJFKの妻であるジャクリーヌの分析家となった。
むー、人間関係が無茶無茶です。だけど大陸系の分析家の人間関係の錯綜具合もこんなもの。ハリウッドはそのアメリカ版の悪しきパロディという気もする。
翻訳は会話の部分がこなれていないのが目立つ。専門用語などは分析に詳しい人にチェックしてもらった方が良かった。psychoanalyst を「精神分析医」と訳してしまったので、アナ・フロイトやドロシー・バーリンガムまで医者ということになってしまった。「ハムステッド」も「ハンプステッド」に。
マリリン・モンローの最期を知る男
長島良三
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