古典的なオイディプス・コンプレックス解釈 「ハムレットとオイディプス/アーネスト・ジョーンズ」

 こんな本出てるとは知らなかった。精神分析家アーネスト・ジョーンズによるハムレットオイディプス・コンプレックス論。ジョーンズは分析史的にはイギリス精神分析の重鎮として知られるけれど、邦訳されているのは確かフロイトの伝記「フロイトの生涯」くらい。フロイトの「秘密のサークル」に属してはいて、アナ・フロイトに言い寄ったりしたみたいだけれど、フロイトにはいまひとつ信頼されなかった。患者との性的関係などのスキャンダルもあり、結構恋多き男性だったこともその一因かもしれない。ウィーンを離れたがらなかったフロイトをロンドンに招く一方で、メラニー・クラインもロンドンでのパトロン的存在にもなった。アナ・フロイトへの忠誠への一方で、クラインを重要視したことが、第二次大戦前後のイギリス精神分析協会の三派抗争の原因ともなっていて、ちょっとトリックスター的でもある。
 
 これもほんとは3巻本なのだけれど訳されているのは短縮版。論旨がやや迂遠でくどい感じ。要はハムレットの優柔不断さのかげにオィディプス・コンプレックスがあったというもの。

両親結合像とアーネスト・ジョーンズ

 1949年の「ハムレットオイディプス」でアーネスト・ジョーンズは「結合両親像」って概念を使ってる。これはやっぱりメラニー・クライン経由なのかな。(フロイト神経症の原因として両親の性交場面を目撃することをあげ、その状況を「原光景」と呼びましたが、「結合両親像」というのはグロテスクな内的対象に変換されたバージョンです)
 もちろんあしゅら男爵クライン派的には結合両親像以外の何者でもありませんね。

シェイクスピアとエラ・シャープ


 これと同じではあるが、たんにシェイクスピアハムレットを同一視するだけよりもはるかに深いのが、エラ・シャープの洞察に富んだ発言である。「詩人はハムレットとは違う。もし作品『ハムレット』を書かなかったら、シェイクスピアハムレットになっていたかもしれない」 via 「ハムレットオイディプス/アーネスト・ジョーンズ」
 "False Self/The Life Of Masud Khan" を読んでいたら、ちょうどマシュド・カーンの訓練分析家としてエラ・シャープ(シェイクスピア学者)というのが出てたのでびっくりした。



 精神分析家はみんな「不思議の国のアリス」を読んで楽しめなきゃいけない。 エラ・シャープ


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