文学

「絶対安全批評/佐々木敦」

純文学というニッチな世界という芥川賞という瞬時の巨大なアウトプットという歪んだバランスの世界。売り上げから見たら純文学の世界ってほとんど二次創作の同人誌と同じ、というか負けてるよね。絶対安全文芸批評 (INFAS BOOKS)佐々木 敦 INFASパブリケーシ…

「アンのゆりかご 村岡花子の生涯/村岡恵理」

「赤毛のアン」の翻訳者、村岡花子の伝記的小説。著者は花子のお孫さんとのこと。 花子はカナダメソジスト派のミッションスクール、東洋英和女学校で英文学にふれ、戦火の中で出版のあてもないままに「赤毛のアン」を訳していたとのこと。卒業後一時期山梨英…

「日本の作家が語る ボルヘスとわたし/野谷文昭 編」

ボルヘス会の10年にわたる講演をまとめたもの。ボルヘスについて何か語るとしたら、やはり奇妙な経緯で手に入れたボルヘスの未発表原稿がいかに自分の手から永遠に失われたかとか、そういう経緯を語り、そもそも語り手と思われる作家が実在するのかを読み手…

「「妹」の運命―萌える近代文学者たち/大塚英志」

明治時代って近いようでいていろいろな資料は手に入りにくくて全容のつかみにくい不思議な時代ですね。 明治時代の村上春樹、水野葉舟が架空の妹にあてて書いた妹萌え書簡とか、田山花袋の「蒲団」のモデルの女性が書いた「不思議の国のアリス」の翻案小説(…

「佐野洋子〈追悼総特集〉 (文藝別冊)」

こういうムック本で通読するのは結構しんどいものだけど、佐野洋子さんのは別。息子さんと元夫の谷川俊太郎との対談など、いろいろ読みどころがありました。佐野洋子〈追悼総特集〉 (文藝別冊)河出書房新社 2011-04-14売り上げランキング : 1685Amazonで詳し…

「切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話/佐々木中」

読むことの不可能性、そしてポストモダン的終末論への強烈な一撃、そして湧きあふるる文学愛。 次のドゥルーズ=ガタリ論楽しみです。切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話佐々木 中 河出書房新社 2010-10-21売り上げランキング : 3…

「現代文学論争/小谷野敦」

ほんとに批評家ってどうでもいいことで論争してるんだなってことが、猫猫先生的に深く収集されています。 笙野頼子論争では執筆者も当事者となるという場面も。 西村京太郎の「天使の傷跡」が「てんしのしょうこん」だと初めて知りました。ずっと「きずあと…

「文学部をめぐる病い―教養主義・ナチス・旧制高校/高田里惠子」

タイトルに「ドイツ文学」の文字がはいらないのはどうかな。 ナチスを巡るドイツ文学者の転向、いじましいポストを巡る争い。 学生相談の母体になったのはすでに解体されてしまった教養学部なんだけど、そのルーツをたどれば大学に編入された旧制高校なんだ…

「文学研究という不幸/小谷野敦」

猫猫先生いつのまにか、本名の「あつし」から、「とん」に呼称変更してたんですね。 時代後れになってしまった文学部の現状、各大学教員を業績の点から講評。 心理学関係はユング心理学の林道義氏のごたごたが書かれているくらいです。文学研究という不幸 (…

「関係の化学としての文学/斎藤環」

斎藤環先生の文学論。ただ桐野夏生の小説の関係性が批評の中核で、ぼくはというと、最近の桐野夏生の小説が全然面白く感じられないので、評論のほうもおもしろく読めませんでした。桐野文学の女性四人組の連想からか谷崎潤一郎なんかも取り上げられています…

漱石の被害妄想の考察「吾輩は猫である」の謎/長山靖生

『吾輩は猫である』を題材にしたうんちく本。病跡学的には統合失調症とか診断されることが多い漱石だが、その根拠とされる過敏なまでの探偵恐怖。もちろん『猫』にも探偵への嫌悪感は描かれているのだけれど、そこには現実的な根拠があるのではないか、とい…

誤配とホモソーシャルで読み解くケータイ小説論 「ケータイ小説は文学か/石原千秋」

ケータイ小説のあらすじを読むのがつらかったです。ケータイ小説は文学か (ちくまプリマー新書)石原 千秋 筑摩書房 2008-06売り上げランキング : 217963Amazonで詳しく見るby G-Tools関連商品 ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち ケータイ小説…

孤独な天才 「尾崎翠/群ようこ」

尾崎翠がどんなに天才だったかというと、よしもとばななが少女マンガ読んでなくて小説書いちゃったみたいな感じ? それだけ魂が先に進んでいるのに、体は戦前に拘束されていたら、頭痛薬の飲み過ぎじゃなくても頭おかしくなりますね。被害妄想的になって精神…

書かれなかった解説 二階堂奥歯とロリータ順子

本の解説で語られた今はこの世にいない女性がふたり。生きていたら解説を書いていたかもしれないふたり。新井千裕「図書館の女王を捜して」で筆者が若かりし日の交流を描いている故・ロリータ順子と木地雅映子の「悦楽の園」の解説で穂村弘があげている故・…

文藝 春 2003

菜摘ひかるの追悼特集があるというので借りてみた。全体の特集が鷺沢萌で一瞬ダブル追悼特集なのかと思ったが、このときはまだ鷺沢萌は生きていたのだった(鷺沢さんの自死は翌年の4月)。 亡くなった人を活字だけで自分の中に納めるのはなかなか難しい。二…

スーパースター三島由紀夫 「平凡パンチの三島由紀夫/椎根和」

著者に寄れば「スーパースター」とはもともとアンディ・ウォーホルが使い出した言葉で、マス・メディアの時代には無名だった人間が誰でもすぐに有名人になれるというニュアンスがあるという。日本で最初にスーパースターの称号を受けた三島由紀夫と平凡パン…

何か梨木作品のような気がしてきた 「『秘密の花園』ノート/梨木香歩」

「秘密の花園」、遠い昔に読んだ記憶があるけどこんな話だったかな。インド帰りって言うのはビオンと同じなんだよね。というか、ビオンはインド生まれなんだけど。 なんだか読んでいるうちに梨木香歩の作品のような気がしてきた。そういえば「西の魔女が死ん…

虚構の天才の早すぎる死「職業 寺山修司―虚構に生きた天才の伝説」

職業 寺山修司―虚構に生きた天才の伝説日本文芸社 1993-04売り上げランキング : 904236Amazonで詳しく見るby G-Tools

細部に神は宿る 「読者はどこにいるのか--書物の中の私たち/石原千秋」

読者はどこにいるのか--書物の中の私たち (河出ブックス)河出書房新社 2009-10-09売り上げランキング : 123011Amazonで詳しく見るby G-Tools関連商品 大人のための国語教科書 あの名作の“アブない”読み方 (角川oneテーマ21) 国語教科書の中の「日本」 (ちく…

「家畜人ヤプー」の作者説が出るのも納得する教養「裁判官の書斎/倉田卓次」

タイトルは平凡で中には法律関係のエッセイ、裁判所の同僚の追悼文なども混じっていて裁判官の退職後の手すさび風の構成を取っていますが、こと話が文学になると漱石からラ・ロシュフーコーから栗本薫から大藪春彦からハードSFまで縦横無尽という感じ。 奇書…

「かたち三昧/高山宏」

知識不足からか、ちょっと高山先生の御著作とは波長が合わないんだよな・・・。「夢十夜」とか文学における図像的象徴の読み解き。かたち三昧羽鳥書店 2009-08売り上げランキング : 414742Amazonで詳しく見るby G-Tools

失われる書籍・失われる晶文社 「ロストブックス」

散逸してしまった古典、構想のみで書かれなかった書籍など失われた書籍を巡る文学史。ドストエフスキー、リチャード・バートン、カフカ、シルヴィア・プラスなど。 この本が出版された直後、老舗の版元、晶文社が文芸関係本の出版を半減させると公表した。何…

「サミュエル・ベケット ある伝記/ディアドリィ・ベア」

基本的に読了本を掲載することにしていますが、900頁もあるのでメモ代わりに使います。 戯曲「ゴドーを待ちながら」で有名なノーベル文学賞作家サミュエル・ベケットの伝記。精神医学、精神分析的にはジェームズ・ジョイスの統合失調症の娘ルチアに惚れられ…

ゆっくりガーリーな本でも読んでいたいな 「世界小娘文學全集----文藝ガーリッシュ 舶来篇/千野帽子」

世界小娘文學全集----文藝ガーリッシュ 舶来篇河出書房新社 2009-02-26売り上げランキング : 302921Amazonで詳しく見るby G-Tools関連商品 文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。 文學少女の友 読まず嫌い。 萌える日本文学 『少女の友』創刊100周年記…

ホームズとモリアーティの鏡転移 「精神分析と物語/ピーター・ブルックス」

文学論でしたね。あんまり面白くなかったんですけど、ホームズのモリアーティのやおい的鏡転移(そんなふうに著者は呼んでませんけど)のところだけちょっと関心を引かれました。精神分析と物語 (松柏社叢書―言語科学の冒険)Peter Brooks 松柏社 2008-11売り上…

クールでスノビッシュな本を巡る探索 「読まず嫌い/千野帽子」

クールにスノビッシュ、発酵するほどの本の海を渡り抜いた本の目利きの反省的読書論。ポー以前のミステリとしてのバルザック、遡及して形成されるジャンルと、ジャンルセンシティブでないゆえに最初に現れる掟破りの作品なんてあたりが面白かったです。読ま…

私生活と解け合うマゾッホの文学 「マゾッホという思想」

マゾッホという思想青土社 2004-06売り上げランキング : 653367Amazonで詳しく見るby G-Tools関連商品 ザッヘル=マゾッホの世界 (平凡社ライブラリー) 魂を漁る女 (中公文庫) 残酷な女たち (河出文庫) 聖母 毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

古典的なオイディプス・コンプレックス解釈 「ハムレットとオイディプス/アーネスト・ジョーンズ」

こんな本出てるとは知らなかった。精神分析家アーネスト・ジョーンズによるハムレットのオイディプス・コンプレックス論。ジョーンズは分析史的にはイギリス精神分析の重鎮として知られるけれど、邦訳されているのは確かフロイトの伝記「フロイトの生涯」く…

お前らもっと萌え擬人化中世起源の凄さを知るべき

ジョイスと中世文化―『フィネガンズ・ウェイク』をめぐる旅/宮田恭子 タイトルはホッテントリメーカーで作りました。 「萌え擬人化(もえぎじんか)は、現代の日本の漫画・アニメなどに関する同人用語で、人間以外の動植物や無生物・概念などが「実は人間(…

新編 江戸の悪霊祓い師(エクソシスト)/高田衛

新編 江戸の悪霊祓い師(エクソシスト) (ちくま学芸文庫)高田 衛筑摩書房 1994-11売り上げランキング : 228072Amazonで詳しく見るby G-Tools関連商品 エクソシストとの対話 バチカン・エクソシスト 奇談異聞辞典 (ちくま学芸文庫) 大江戸化物図譜 (小学館文庫…