therapy と treatment/自分の都合で語義を変えて訳してはいけない


 同様に翻訳が課題になっている用語には、intervention(介入)やtreatment(処遇もしくは治療)といった大切な用語が多い。前者の「介入」は、一般の人々からすると、勝手に侵入されるような危惧をおぼえてしまい、抵抗感が強い訳語であろう。応用として、crisis intervention の訳語である「危機介入」も、同じ理由から最近では「緊急支援」と訳されたりしている。また、後者の treatment は、司法・矯正・保護領域では「処遇」と訳されることが多いが、まったく同じ用語が精神科領域では圧倒的に「治療」と訳されている。しかし「治療」の原語は therapy であるはずである。思いあぐねた著者が専門家に相談したところ、おそらく treatment の本意の訳語は「臨床心理相談」ではないかという示唆を得た(森谷 2006)。   via 精神科臨床における心理アセスメント入門/津川律子 p.49
 intervene はそもそも inter(間)+vene(来る) で「強制的に間にわりこむ」って意味なので「緊急支援」とは随分ニュアンスが違う。ある程度抵抗があっても強行にやるからこそ「介入」なのだ。
 また therapy っていうのは19世紀になってギリシア語から学術用語として作られた言葉だ。何を持ってより古い用法の「treat=治療する」の語義を心理相談にひきつけて訳さなければならないか理解に苦しむ。お風呂で頭を洗うやつ、「臨床心理相談シャンプー」と呼びますか? treatment = 治療、therapy = (心理)療法 でいいんじゃないか。まあ「心理臨床相談」と訳そうっていうんじゃないだけマシだけど。