新大陸イギリス 「こどもの精神分析的心理療法の基礎/鵜飼奈津子」

 メラニー・クラインがイギリスに渡ったときの気持ちってどんなものだっただろう。大学も出ていない彼女にとって「子ども分析」というのは自分を認めてもらう非常な大きなチャンスだった。しかし、そこには非常に都合の悪いライヴァルがいた。よりによってあのフロイトの娘。しかも技法論を巡って彼女とメラニーはことごとくぶつかる。
 自分が一番の理論的継承者であると思っているフロイトがライヴァルのパトロンであるとは。そんな彼女のうしろだてをしてくれたのはイギリスのジョーンズだった。慣れないロンドンでの暮らしを始めたメラニーにとってイギリスは自分を受けて入れてくれるかもしれないいわば希望の新大陸だったことだろう。
 しかしメラニーはついてない。大戦がはじまってフロイトが娘と一緒に新大陸にやってくるし、かつて分析した娘は自分を糾弾する。


 なにか日本からイギリスに渡ってクラインについて学ぶ人は、このようなクラインの生活史が反復される気がする。平井先生然り、鵜飼先生然り。ちょっと違うのは、クラインと違って日本人は日本に帰ってくるということ。
 鵜飼先生の場合、かつては自分も行っていたアクスライン流のプレイセラピーがいわば仮想敵としてターゲットされている。確かにたくさんのゲームに溢れたプレイルームでこの本に書かれているような密やか心の交流がかき消されてしまうこともあるだろう。でも子どもといっても一様ではない、体を動かすことで発散する子だっているのでは、とは思う。林もも子さんが愛着本で述べていたけど、ロジャーズのやり方では限界を感じ、分析のやり方には窮屈さを感じるというのはぼくも感じるところだ。

 
 だから筆者が訓練分析でクライン派の分析家の非常に乱暴な分析に辟易して一回で辞めたというところを読んですごく安堵した。そんなのが拡大再生産されなくてほんとによかったと思う。


 でもちょっとこういうプレイセラピーも一回くらいやってみたいね。狭い部屋の中で象徴表現を通じた心の交流を。

子どもの精神分析的心理療法の基本
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