「エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇/S.C.Kalichman」

 3.11以降基本的な科学知識の重要さには思い知らされる。何でも検索できる世界は確かに便利だが屑情報と重要な情報が混交しているから、自分の思い込みで検索をかけると、何かしらミスリーディングな情報に行き当たってしまうことも多い。
 本書はエイズHIVによらないと確信する人々(エイズ否認主義)のでたらめぶりをとことん追求したもの。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、南アフリカではムベキ元大統領がエイズ否認主義を支持したためHIV感染が拡大した。アメリカでも母子感染した子どもに母親が適切な治療を受けさせずに死亡という悲惨な事例も起きている。その母親は子どもの死の原因をエイズとは認めず、結局自らもエイズで亡くなった。
 先に基本的な科学知識の重要性について書いたが問題はそれほど単純ではない。エイズ否認主義には十分な科学知識を持っているはずのノーベル賞受賞者や、癌研究者、有名大学の教授などもいるからだ。残念なことにロックバンドのフー・ファイターズエイズ否認主義に荷担しているという。
 現実に即した柔軟な視点を得ることの難しさ、人間の愚かさについて考えさせられる本。

エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇
エイズを弄ぶ人々 疑似科学と陰謀説が招いた人類の悲劇S. C. Kalichman 野中香方子

化学同人 2011-01-29
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