理論

基底欠損

経験をつんだ分析者が失敗するのはなぜか?
→分析者の解釈をとりいれることのできる相当強い自我構造を仮定


  エディプス葛藤領域 基底欠損領域 創造領域
対象関係 三者関係 一次愛的二者関係 外的対象、転移は存在しない
  成人言語の水準 解釈が理解される 非言語水準 解釈は攻撃/満足を与えるものと理解される  
  基底欠損領域の分化によって生じる 退行→転移性行動化。葛藤は存在しない。  基底欠損領域の単純化によって生じる

 関心は自己の内部から芸術、病気などを産出することにある。

自己愛

 出生直後の幼児は環境と個体の調和的渾然体 (harmonoious mixed-up)。フロイトがいう出生直後の乳幼児の一次的自己愛を否定し、自己愛はすべて二次的なものとする。
・口唇的依存とは実は相互依存である。

一次愛 環境との一次関係。甘え「愛されたいと願うこと」

フィロバットとオクノフィリア

 母子一体の「調和的渾然体」が崩れたときに出現するふたつの状態。バリントの造語。

  調和的渾然体 フィロバット オクノフィリア
  母子一体の状態。マーラーの共生期。 スリルを楽しむ人。個人のスキルの獲得を特徴とする。創造領域の基底 安全感が脅かされると対象に依存し、しがみつこうとする人。エディプス・コンプレックスの基底
中井(1991) 純粋な甘えの状態 甘えの拒否 甘えの病理的形態

退行

 「成熟度の進んだ体験行動形式確立後に分析治療への反応において原始形式の体験行動が出現すること」(バリント)
 フロイトは退行の intra-personal な側面を考えたが、inter-personal な関係の持つ治癒力も存在する。
 どんな場合でも受動的、好意的客観性をともなう対象関係が最良というわけ ではない。
 基底欠損を解消するには、欠損の原因となった特定の対象関係までに退行す ることが必要である。
 <注意点>
  すべてを転移とみなさないこと
分析者が周囲から際立たず、一次物質と化すこと。
万能者に見えないこと

        

新規まき直し(new beginning)

 愛情関係に問題を持つ困難な性格障害の患者の分析の最終段階に現れる、最初期の対象関係。そこでは患者は愛することでなく、受け身的に愛されることを願う。
・分析的雰囲気の突然の変化
 緊張増大期にははなばなしい症状が出現し、欲求が充足されると、突然静かで、平和で万事よしの感情が生じる。この感情は見逃されやすい。
・活動が新しく再開されるが、この活動による満足の強度は決して極大快楽水準に達しない。
・必ず転移すなわち対象関係の中で生じ、患者の愛憎対象関係の変化におよぶ。結果として不安が格段に減少する。
・性格変化(自我内部の変化)を生じる。
・新規まき直しは「前進のための退行である」

■良性退行の例
 20代後半の女性。主訴「何をやっても最後までやり通せない」
 大学の最終試験を受けられない。男性の求愛に答えられない。恐怖感が起こってしまう。
 父親は強迫的だが信頼できる。母親は何となくいじけた人で信頼できなかった。
 分析の2年目に解釈「あなたにとってもっとも大事なことは、安心して頭をもたげ両足でしっかり大地を踏みしめ続けることですね」
 「小さい時からとんぼがえりをしたことがない」「いろんな機会をとらえてやってみたがだめだった」
 「今はどうだね」というと、寝椅子から起きてやって見せる。

 この「中央突破」の後、患者の情動、社会生活、職業生活に変化が生じる。
 試験に合格し、結婚する。結婚すると分析を中断するのが慣例。
 2年後分析を再開し1年2ケ月続ける。30年フォローしているが、予後は良好。

 とんぼ返りをどう考えるか?
 転移、行動化、反復、退行どれにもあてはまる部分とあてはまらない部分がある。
1)即座にとんぼ返りをする機会を提供し、患者を恐れていた状況に入れて患者内面の緊張を増大させたこと。
2)それによって患者のある本能の正面突破を助け、その結果患者がそれまで抑圧していた衝動をここちよく満足させたこと。
3)因果関係はどうあれ、患者の自我を強化したこと

 ひきこもり、解体とは鑑別する必要がある。
 ひきこもり・・・創造領域の没頭とも考えられる。
 解体・・・・・・進行中の分裂病、老人における性器性の消失。

悪性退行 良性退行
アンナ・O 面接中にとんぼがえりした患者
30分の沈黙の後に泣き出した患者

分析者(Breuer)の逆転移  
際限のないねだり
分析者との身体接触
本能充足を目的とする

認識されるための退行