司法心理療法/Christopher Cordess & Murray Cox 編著

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 何となくアメリカの本かと思っていましたが、読んでみるとイギリスの精神分析系の方も多く執筆されているので驚きました。「ビオン臨床入門」のNeville Symington も執筆しています。またフークス集団分析やサイコドラマへの言及もあり思わぬところで勉強になりそうです。タイトルを「英国精神分析的司法心理療法」とでもした方がよかったのではないかと思います。
 読んでみると実際にオランダの医療刑務所では殺人犯に週5回の精神分析が行われていたりします。税金の無駄遣いと批判されたりはしないのでしょうか。
 翻訳者に関する情報はたくさん掲載されていますが、原著作者の情報はほとんど記載されていません。検索してみると Christopher Cordess はシェフィールド大学教授で専攻は司法精神医学、精神分析家でもあるようです。目次に著作者の名前が書いていないのでわかりにくいです。索引がないのもマイナスポイント。かなり大部の本ですが、訳出されているのは元本の前半「理論編」のみ。実践編は英語で読みましょう。ただし今のところアマゾンで買うと4万円くらいするみたいです・・・
 序文のタイトルが「心の内と外から」というタイトルで、僕自身のテーマと重なるのですが、これが神田橋條治先生のスーパーバイザー John Padel の娘で古典学者の Ruth Padel の著作のタイトルだと書いてあって感銘を受けました。John Padel 自身も精神分析家であり、シェークスピア学者なのですね。Nina Coltart もそうですが、イギリスの精神分析の文学的素養というものは驚くべきものがあります。
 訳は全体にやや堅め、精神分析用語に既訳が使われていないのがやや勉強不足という感じです。 

  • p.3 幼児期における無視 → 幼児期におけるネグレクト or 育児放棄
  • p.6 (Plato, 1993, p.63) まあ、たしかに参照した本はプラトン「弁明」で1993年に発売されているし、原著にもそう書いてあるのでしょうが、何だか違和感を覚えます。プラトンの最新作!2000年の時を越え発売・・・
  • p.7 John Rickman の引用・・・渋い・・・
  • p.39 「無価値化」→「価値下げ」
  • p.57 「生体による脱感作」→「現実刺激による脱感作」
  • p.128 Ferenzi → Ferenczi
  • p.144 「発達の要素(道筋)」→「発達ライン」(アナ・フロイトの概念です)
  • p.181 「象徴的同一化」 文脈からすると「象徴等号」のこと?
  • p.225 「アルカイック超自我」→「未熟な(蒼古的な)超自我
  • p.229 「folie a deux (ふたりの個人の間で共有される異常)」→「二人精神病」
  • p.264 Aichorn → Aichhorn(コフートの教育分析家、非行臨床で有名)
  • p.279 「浮動性討論」→「自由に漂う議論」 「自由連合」→「自由連想」? 「ヨセフが刑務所で見た夢」→「ヨセフが牢屋で見た夢」 聖書のお話ですからね・・・
  • p.288 「1990年のS.H.Foulkes の年次講義」 残念ながら1990年にはフークスは亡くなっていますから→「1990年のS.H.Foulkes記念講演」
  • Key Words シャーロック・ホームズ、自己のずるい部分(Meltzer)

司法心理療法―犯罪と非行への心理学的アプローチ
479110563XChristopher Cordess Murray Cox 作田 明

星和書店 2004-12
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